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全国98進学校 海外名門大合格実績 受験生たちの視線は世界へ 海外名門大に強い学校は?

オックスフォード大マートン・カレッジ=英オックスフォードで2024年6月
オックスフォード大マートン・カレッジ=英オックスフォードで2024年6月

 コロナ禍で制限されていた時間を取り返すかのように、社会のグローバル化が再び加速している。優秀な受験生が海外の大学へ直接進学するケースも、今や珍しくなくなってきた。海外大に強い学校はどこか、探ってみよう。

 グローバル化が進む中、高校卒業と同時に海外の大学に進学するケースが増えている。43年連続で東大合格者数1位の開成も例外ではない。

 各校へのアンケートの回答をもとに集計した、66㌻から始まる「全国98進学校 海外名門大合格実績」をみてほしい。開成は、東大・京大や早慶に加えて、コロンビア大やトロント大など海外大にも合格者があり、コロンビア大とメルボルン大には進学者を出している。開成と並ぶ進学校の灘もマサチューセッツ工科大やワシントン大などに合格しており、マサチューセッツ工科大やノースウエスタン大などに進学者がいる。この2校のような東大や京大に普通に進学できる学校から海外大を目指す背景には、グローバル化が進み、東大や京大を凌(しの)ぐ世界の大学が身近になってきたことがあるのではないか。

 65㌻の表は、英教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)が発表した2024年版の世界大学ランキングだ。

 トップは前年に引き続きオックスフォード大。2位は、高校野球で活躍した佐々木麟太郎選手が花巻東から進学したスタンフォード大だ。3位は、前年の5位から順位を上げたマサチューセッツ工科大。4位はハーバード大、5位はケンブリッジ大という並びだ。トップ10までは全て英国と米国の大学だ。

 アジアの大学はどうか。トップは12位の清華大、次いで14位の北京大と、中国の大学が並ぶ。アジア3位はシンガポール国立大。日本トップの東大は世界29位、アジアでは4位という立ち位置だ。京大は世界55位で、日本の大学からトップ100に入ったのはこの2校のみ。教育ジャーナリストの小林哲夫さんはこう話す。

「東大は昨年の39位から10も順位を上げましたが、実は特筆すべき成果を出したというわけではありません。交付金の減少や、論文数の不足という現状は改善されないままで、円安での国力低下もあいまって、日本の大学が世界に取り残されてしまうような危機感があります」

 ランキングはさまざまな指標から構成されるが、その中には年によって変動しやすいものがある。また、大学によって得意分野が異なるのだから、細かい順位の変動に一喜一憂せず、大まかに把握する方がよいだろう。

 THEのランキング上位に来るトップ大学以外にも、一般的な大学も含め海外大に進学するケースが増えている。この要因として考えられるのは、初等・中等教育のグローバル化だ。

 20年度には小学校で英語教育が必修化した。中学、高校においては、世界共通のカリキュラムでグローバル化に対応できるスキルを育成する「IB(国際バカロレア)校」の設置が進んでいる。16~19歳を対象とし、2年間の履修で国際的な大学入学資格(国際バカロレア資格)が取得可能な「DP(ディプロマ・プログラム)認定校」は、24年3月末現在で68校。元々は主にインターナショナルスクールなどで実施されていたものだが、現在は札幌開成中教、仙台二華、国際(都立)など、公立校での導入例も増えている。

 さらに、日本と海外の高校卒業資格を得られる「ダブルディプロマ制」を選択できる学校も増えており、例えば、文化学園大杉並では、日本の学校に通いながら同時にカナダの学校にも在籍して両方の卒業資格を得られるコースが置かれている。このような学校で学んでいれば、卒業後に直接、海外の大学に進学することも自然と選択肢の一つとなるのではないだろうか。

 では、海外大に強い学校はどこなのだろうか。もう一度「全国98進学校 海外名門大合格実績」に目を移してほしい。海外大合格者数トップは4年連続となる広尾学園で、合格者数は200人。以下、120人の三田国際学園▽104人のN▽84人の北豊島▽79人の国際――と続く。

 合格大学名を見ていくと、広尾学園はスタンフォード大、ジョンズ・ホプキンズ大、ペンシルベニア大など。三田国際学園はプリンストン大、カリフォルニア大バークレー校(2人)、コーネル大など。通信制のNはジョンズ・ホプキンズ大、トロント大、エディンバラ大など。世界大学ランキングで東大よりも上位に位置するような名門大に合格しているケースがいくつか見られる。

 広尾学園は海外帰国子女受け入れ指定校の第1号である順心女子学園を前身とし、07年に共学化して現在の校名となった。その際に設置したインターナショナルコースは、帰国子女や外国籍の生徒などが数多く在籍する国際的な教育環境となっている。同校の植松久恵教頭はこう語る。

「以前は本校も海外大合格者は10人、20人という数でした。18年に80人ほどの合格者が出たのを機に、海外大を志向する生徒が増えています。海外大進学には十分な情報が必要ですから、年間200校ほどの海外大の説明会を実施し、海外大に進学した卒業生が長期休暇で帰国した際に講演会を開催してもらうなど、生徒への情報提供には力を入れています」

 広尾学園のインターナショナルコースでは科目によって普段の授業も英語で行われる。このような環境下にあった生徒は、海外の大学で学んだ方が能力を伸ばすことができるのかもしれない。

 他校の合格実績もみていこう。IB校では、国際がオックスフォード大、プリンストン大、インペリアル・カレッジ・ロンドンなど。茗溪学園はスタンフォード大、インペリアル・カレッジ・ロンドン、コロンビア大など。グローバルリーダー育成に向けて文部科学省が指定するSGH(スーパーグローバルハイスクール)では、渋谷教育学園幕張がシカゴ大(2人)、カリフォルニア大ロサンゼルス校(2人)、ワシントン大(2人)など。IB校でSGHの学芸大付国際中教は清華大、シカゴ大、ペンシルベニア大(2人)などだ。

円安の影響は甚大も 充実する奨学金制度

 海外大進学に向けて、気になるのは費用面。世界的なインフレと円安が進む中、学費と生活費を合わせると年間1500万~2000万円程度に及ぶこともあるようだ。前出の広尾学園の植松教頭は言う。

「1ドルが160円という時代で、海外大への進学費用はもはや一般家庭が負担できる金額ではありません。奨学金を得ることが重要ですが、本校ではさらに、奨学金の金額交渉まで指導します」

 独自の海外進学奨励金制度を設けている学校もある。トロント大やマギル大などに合格者のいる武蔵(私立)では、卒業後に直接海外大に進学する生徒に対し、審査・選考の上で総額500万円を給付する制度がある。

 また、「孫正義育英財団」や「柳井正財団」など、民間資金による奨学金制度も増えつつある。競争は厳しいものの、海外大進学のための手段はいくつも用意されているのだ。

 円安の影響は大きく、費用面その他のさまざまなハードルは依然として存在するが、それらを乗り越えて海外の大学で学ぶことの意義は大きい。今後ますます社会の多様性が増す中で、グローバルな環境で学んだ人材の活躍に期待したい。

<サンデー毎日8月4日合併号(7月23日発売)では、全国98進学校の海外名門大合格実績を一覧表で掲載しています>

サンデー毎日 2024年08月04日号(表紙:ぼっち・ざ・ろっく!)
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7月23日発売の「サンデー毎日 7月14日号」には、ほかにも「自らも発症した元外科医が教える『がんに克つ5か条』」「9浪の教育ジャーナリストが語る就活『30歳の壁』」「10ページ大特集! アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』」などの記事も掲載しています。

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