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ちょっと分かりづらい 立憲民主党の皇位継承政策 成城大教授・森暢平

講演する野田佳彦元首相=東京都内で2024年7月、田辺佑介撮影
講演する野田佳彦元首相=東京都内で2024年7月、田辺佑介撮影

◇社会学的皇室ウォッチング!/125 これでいいのか「旧宮家養子案」―第27弾―

 自民党総裁選の話題の陰に隠れるが、立憲民主党の代表選は9月7日告示で、23日に投開票される。皇位継承問題は「国会の総意」で決まるので、野党第1党の対応が重要だ。しかし、対応は実にはっきりしない。(一部敬称略)

 現代表の泉健太は昨年1月、男系継承維持に踏み込んだ。

「先例、男系、直系ですよね。(略)ずっと長く続けてきたものを、もちろん、何か手段として変えてしまうことは、できるのかもしれませんが、続いてきた意味や重みというものを受け止めて、できる限り続けてきたものを踏襲するというものが、大前提だと思います」(インターネット番組「チャンネルくらら」でのインタビュー)。

 完全に男系継承維持に偏っている。ところが、今年1月31日の衆院代表質問で泉は「(岸田文雄)総理は、自民党総裁選で、女系天皇には反対と述べられました。今もそのお考えですか。(略、有識者会議の)報告書では、婚姻後も本人のみ皇族、配偶者や子を皇族としない案のみが示されました。総理、これが複数案を比較検討した結論なのか」と聞いている。女系天皇や女性宮家案を真剣に検討しない自民党を批判しており、少なくとも女性天皇容認の立場に立っているように見える。ある時は男系継承維持の発言を行い、別の時は女性天皇容認ととれる質問を行う。まったく分かりづらい。

 5月17日と23日に国会で皇位継承問題が協議された。ここで、立憲民主党の元首相、野田佳彦は女性皇族の夫と子を皇族としない案について、夫が政治活動をし、子がタレントにもなれると指摘した。女性宮家のあり方について、皇族・国民混成案(野田政権ではⅠ―B案と呼ばれていた)に慎重な意見を示し、有識者会議の結論どおりの決着というシナリオを崩したのである。

論点整理しただけ 主張はっきりせず

 では、立憲民主党はⅠ―B案に反対で、女性皇族の夫と子に皇族の身分を付与する案(こちらはⅠ―A案とよばれる)を推しているのだろうか。実は、はっきりしない。立憲民主党が3月に衆参の両院議長に提出した「論点整理」では、Ⅰ―A案、Ⅰ―B案の両案が併記され、それぞれに賛成、反対の理由が書かれていた。

 書きぶりとしてはたしかにⅠ―A案に賛成し、Ⅰ―B案に反対する記述が厚い。女性皇族の夫や子の職業選択の自由などの諸権利に法的な制限はなく、その行動が皇室の品位や政治的中立性を侵した場合、妻たる女性皇族の皇籍離脱の問題に発展する危険性があるなどとしっかり記されている。その一方で、「配偶者や子に皇族の身分を付与することは、将来の女系天皇につながるおそれがあり、男系で126代継承してきた皇室の伝統を破壊するものである」という意見も紹介される。結局、「論点整理」という文書の名前どおり論点を整理しただけで、立憲民主党としての考えを明確にしたわけではない。

 なぜそんなことになったのか。それには、党内保守派の存在がかかわっている。「論点整理」をまとめる最終段階で、内容がリベラルに傾きすぎないように党内保守派が巻き返しを図った。たとえば、当初案では、「退位特例法に対する附帯決議の要請の遵守(じゅんしゅ)」「憲法整合性の検討」「立法府としての責務」の3点だけが強調されていた。とくに、1番目に「附帯決議の要請の遵守」とあるのは、2017年の附帯決議で、国会は政府に「女性宮家の創設」の検討を要請したのだから、夫や子を皇族とするⅠ―A案を検討しない有識者会議報告書は踏み込み不足だと異を唱えたのだ。

 しかし、「論点整理」最終版には、3点に加え、「歴史と伝統の尊重」という第4の項目が加わった。「天皇・皇室はわが国古来から紡がれてきた固有の存在であって、先人の智恵と労苦により皇位が継承されてきた事実がある。よって、その制度を議論するにあたっては、長い歴史と伝統を尊重することが求められる」。歴史と伝統とはすなわち、男系継承のことだ。これでは、自民党とほとんど同じ考えになってしまう。

 もちろん、立憲民主党は、旧宮家養子案を積極的に推進する書き方はしていない。復帰対象者の調査と意思確認が大切で、憲法上の問題をクリアすべきだと強調している。党内には、女性宮家案(Ⅰ―A案)を通すには、旧宮家養子案と抱き合わせにしなければ「国会の総意」にならないという最終的な落とし所を見据えた考えがあり、有権者に分かりづらい論理構成になっている。

男系派に推される女性宮家派の野田

 立憲民主党内で、保守の立場から皇位継承について発言してきたのは、森山浩行、落合貴之、源馬(げんま)謙太郎、藤岡隆雄らである。「論点整理」にⅠ―B案に賛成する案が残り、旧宮家養子案に明確な反対をしなかったのは、彼らの巻き返しが大きい。名前を挙げた4名のうち落合、源馬、藤岡の3名は、党内の若手中堅議員でつくる派閥「直諫(ちょっかん)の会」(会長、重徳和彦衆院議員、18名)のメンバーである。

 事態をさらに分かりづらくしているのは、「直諌の会」の重徳らが8月19日、野田に代表選への出馬を要請していることである。旧宮家養子案を推すメンバーを抱える派閥が、女性宮家の実現を目指す野田を応援するというのだ。

 皇位継承をめぐる党内情勢について、源馬は3月5日、「圧倒的多数は中間的というか、完全に男系を守んなきゃいけないという私たちと、絶対に女系にしなくてはいけないと考えていらっしゃる方たちは割と少数で、圧倒的多数は、そのどちらでもない、あるいはあまり深くご存じないという感じなのかな」(「チャンネルくらら」でのインタビュー)。

 しっかりしてほしいのは、「どちらでもない人」たちである。皇位継承を、この国のジェンダーや家族の問題と結び付けて考えることが、野党第1党としての責務である。残念ながら、立憲民主党はその役割を十全に果たしていない。(以下次号)

■もり・ようへい

 成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮新書)、『天皇家の恋愛』(中公新書)など

サンデー毎日09月08号表紙(表紙:木戸大聖)
サンデー毎日09月08号表紙(表紙:木戸大聖)

「サンデー毎日」9月8日号ではこの他、「寺島実郎が自民党総裁候補に『首相の資格』を問う」「最後の“サマピ”へ 南こうせつロングインタビュー」「大平一枝×吉田潮×福田フクスケ 『虎に翼』熱烈座談会」などを掲載しています。

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