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有名77大学人気284社就職実績 学生に求められる基準高く、大手企業はさらに狭き門
大学生の売り手市場が続いているが、大手企業の採用は狭き門。それでも人気が高いのはなぜなのか。就職特集第3回では、大手企業人気の背景を検証するとともに、各大学の有名企業への就職状況についてみていこう。<サンデー毎日9月1日号(8月20日発売)より>
◇有名企業に強い大学ランキング
情報化、超高齢化、グローバル化などをキーワードとして社会構造が大きく変化する中、就職では、学生の大手志向が強まっている。リクルート就職みらい研究所所長の栗田貴祥さんは言う。
「規模感や業績、待遇面、福利厚生などの安定感とともに、労働時間や休暇など働きやすさを求める学生が増えています。さらに、不確実性が高く、変化が激しい状況でも生き抜いていけるように、自身が成長できる機会や環境が充実しているかどうかが企業選びの重要な指針となっています。こうした点を総合して選ばれやすいのが大手企業となるのでしょう」
もちろん、〝寄らば大樹の陰〟という安定志向だけで大手企業を志望する学生もいるかもしれないが、自分自身が生涯にわたって持続的に働く力を身に付けられることを重視する学生が少なくないようなのだ。
人気が高い大手企業だが、求人倍率は低く、リクルートワークス研究所調べによると、2024年卒を対象とする従業員規模5000人以上の企業の求人倍率は0・41倍で、大学生1人当たり0・5社に満たなかった。
求人倍率が低いところに志望する学生が多いことから、大手企業に限っては買い手市場とも言えるが、採用予定数を充足できる企業は少ないという。その背景について、文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所所長の平野恵子さんが解説する。
「大手企業が学生に求める、〝当たり前に仕事ができるレベル感〟が上がっていると思います。今の学生は消費者としてSNSなどを使いこなすことに長(た)けていますが、提供者としてのITリテラシーが高い学生は少ない。多様性があるメンバーと協働できるコミュニケーション力も求められています。大手企業は採用したくてもできないのではないでしょうか」
少ない求人数をさらに下回る採用人数となる中、高い壁を越えて大手企業に就職した学生の割合が高い大学について、まとめたのが「有名企業に強い大学ランキング」。
1位は、このランキングのトップ2の常連だった東京工業大(2位)と一橋大(3位)を昨年抜き、今年も同順位をキープした豊田工業大。トヨタ自動車が社会貢献の一環として設立した大学で、同社の援助により学費が国立大並みということから優秀な学生が集まっている。卒業生が137人と少ないこともあるが、トヨタ自動車(11人)、豊田自動織機(5人)、三菱電機とデンソー(各3人)などの有名企業に就職者を出している。
東京工業大の主な就職先は、日立製作所(36人)、野村総合研究所(29人)、アクセンチュア(24人)、日産自動車とソニーセミコンダクタソリューションズ(各22人)など。ちなみに、東京工業大は今秋、東京医科歯科大と統合して東京科学大になる。東京医科歯科大の一般企業への就職者は少ないため、東京科学大になると当ランキングの順位が下がるとみられている。一橋大の就職者最多企業は、三井住友銀行(19人)で、アクセンチュア(15人)、三井住友信託銀行(13人)、三菱UFJ銀行とEYストラテジー・アンド・コンサルティング(各11人)などが続く。
4位の名古屋工業大は同地区の最難関大である名古屋大(12位)の実就職率を11・5㌽上回る。就職者が多い企業はデンソー(61人)、トヨタ自動車(24人)、アイシン(22人)などで、入試難易度を勘案すると名古屋大よりお得な大学とも言える。同様の傾向は九州大(22位)の実就職率を7・4㌽上回る8位の九州工業大にも当てはまる。
前号(8月18・25日号)で示したように、理工系大学は、一般的な企業を含めた実就職率ランキングで多くが上位にランクインしているが、有名企業に限定した当ランキングでも強く、前出の大学に東京理科大(5位)と電気通信大(7位)を加えると、トップ10のうち6大学を占める。
◇最難関大で増加傾向 外資系大手コンサル
大学の規模に注目すると、6位の慶應義塾大は卒業生7730人の大規模大学ながら、就職者の4割以上が有名企業となっている。一方、慶應と並ぶ私立最難関の早稲田大は、卒業生が1万1671人と多いこともあるが、実就職率は慶應を下回る9位。ただ、そこには早稲田らしさが出ていると言うのは同大キャリアセンター長の野地整さんだ。
「卒業生の約7割が企業・団体に就職していますが、ベンチャー企業や地方企業、さらに留学生を中心とした海外の就職先などを合わせた企業・団体数は2300機関に上ります。そのうち、約1500機関は就職者1人です。自律的・主体的に活躍できる場であれば、地域や規模に関係なく進むのは、進取の精神を持つ早稲田らしさと言えます」
実際、早慶の就職者が多い企業は大きく変わらず、慶應がベイカレント・コンサルティング(124人)、アクセンチュア(100人)、デロイトトーマツコンサルティング(83人)、三井住友銀行(67人)、EYストラテジー・アンド・コンサルティングと東京海上日動火災保険(各66人)。早稲田は、アクセンチュア(100人)、NTTデータグループ(98人)、ベイカレント・コンサルティング(85人)、みずほフィナンシャルグループ(79人)、デロイトトーマツコンサルティング(66人)。早慶共に、コンサルティング会社が多いという共通項がある。近年の就職先の特徴について、早稲田の野地さんは、こう話す。
「早稲田の伝統として、金融や製造業、マスコミなど、幅広い業種に就職していますが、近年は、コンサルティング会社(専門サービス)の就職者が増えています。情報関連の案件を扱うコンサルティング会社が増えていることから理系の学生の就職も多いですね。自身が成長できる職種と学生が捉えていることに加え、採用数が拡大している影響もあります」
東大や京大、上智大といった国立と私立の最難関大でも、就職者数最多企業が、外資コンサルティング会社大手のアクセンチュアとなっている。他にも、デロイトトーマツコンサルティングやPwCコンサルティングなどの外資大手を中心に、難関大でコンサルティング会社への就職者が増える傾向がみられる。
◇メガバンクが上位に 航空も就職者数回復
他の業種の状況をみると、旧帝大や東京工業大は理系の学生が多いことから、日立製作所やNEC、三菱重工業、トヨタ自動車、日産自動車など大手製造業に多くの就職者がいる。地元企業に強さを発揮する傾向もみられ、京大の就職者が2番目に多いのは関西電力(26人)、北海道大と名古屋大の就職者数上位2社は、前者がニトリ(22人)と北海道電力(19人)、後者がデンソー(53人)とトヨタ自動車(52人)、九州大は九州電力(41人)が最多だ。
文系学部が主体の一橋大は、前述の通り金融が多い。同様の傾向は、文系の学生が多いMARCH(明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)や関関同立(関西大、関西学院大、同志社大、立命館大)でもみられる。メガバンクの就職状況が好調な大学が多く、みずほフィナンシャルグループは明治大(66人)、中央大(56人)、法政大(53人)、立命館大(39人)で、りそなグループは立教大(29人)、関西学院大(43人)で就職者数最多企業となっている。同志社大のトップタイに京都銀行(38人)が入るなど、銀行の就職者数が回復しランキング上位に入る大学が多くなっている。
就職者数が回復している業種として航空も挙げられる。青山学院大の就職者数トップは日本航空(28人)で、全日本空輸(19人)も7番目に多い企業になっている。日本航空は、立教大(21人)と上智大(20人)でも就職者数ベスト10に入っている。
ここまで、難関大の就職者数が多い企業の傾向についてみてきた。有名企業への就職者数の詳細については、「有名77大学 人気284社 就職実績」をご覧いただきたい。