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がんが消えていく暮らし方 元外科医が病を発症して辿り着いた克服法

船戸崇史医師
船戸崇史医師

♢がんが嫌がる生活5カ条

 外科手術や緩和医療など、あらゆるがん医療に数十年にわたり携わってきた船戸崇史医師。やがて、自らも腎臓がんを発症。自身の再発防止のために行ったさまざまな補完代替医療や生活習慣の中から、エビデンスとして証明できるものだけを現在も実践、紹介している。がんが嫌がる、そしてがんにならない暮らし方、その決定版!

 JR名古屋駅から、列車を乗り継いで約1時間。のどかな田園風景と小さな集落を飽きずに眺めながら、岐阜県養老町にある「船戸クリニック」へと辿(たど)り着いた。ここは西洋医学と補完代替医療を合わせた、統合医療のがん治療を受けられる医院として知られる。出迎えてくれたのは、船戸崇史院長である。他人との垣根を取り払う、柔らかい笑顔。しかし、一線で走り続ける人ならではの壮健さも漂う。

「それぞれの医療の良い面は取り入れ、弱点を相互に補う治療を行っています。そのためがん摘出手術や放射線治療、抗がん剤などは従来の病院でやっていただき、私のクリニックではホスピスマインドをベースにした補完代替医療をおもに提供しているのです」(船戸院長・以下同)

 補完代替医療とは、具体的には高濃度ビタミンC点滴療法、リンパ球点滴療法、オゾン療法、水素吸入療法、還元電子治療、温熱療法、漢方、気功、催眠療法、スピリチュアルカウンセリングや各種マッサージ、サプリメントなどだ(※)。

「臨床データがそろっていないのでまだ保険適用にはなっていませんが、行っているのはがんに対してある一定レベル以上の成果を上げている治療法ばかりです」

 なにより船戸院長自身が、この治療法によりがんを患ったあとの15年間を健康に過ごしてきた。それに加えて、船戸院長は「がんに克(か)つ5カ条」に基づいた暮らしを送り、患者にも提唱している。それが「睡眠、運動、加温、良食、笑い」だ。余命3カ月といわれたがん患者で、この5カ条を実践した結果、なんとがんがほぼ消えた人もいる。

 当時73歳だった男性Iさんは、胃から肝臓とリンパ節へのがん転移があった。肝臓のほぼ9割はがん細胞に侵され、がん性腹膜炎による腹水の症状も見られた。無治療なら余命3カ月と、他の病院で診断を受けていた。だがここに来院し、船戸院長の掲げる「がんに克つ5カ条」を守ったところ、4カ月後には肝臓腫瘍の9割、腹部リンパ節腫大と腹水がすべて消失していたという。

「正直、CT(コンピューター断層撮影)画像を見た私自身も驚きました。でも、人の自然治癒力というのは本当にすごい。西洋医学だけを妄信している医師の多くは、Iさんのような転移が進んだ状態やステージ4の患者さんに対して〝治らない〟というレッテルを貼りがちです。それは〝ステージ4ではがんは治りにくい〟と、そう学んできたからです。でも、それはがんを部分的なデータだけで判断しているにすぎない。

 医師に〝治らない〟と余命宣告されれば、多くの人は生きがいや生きる意欲を削(そ)がれてしまいます。それが本来、体に備わっている自然治癒力を弱めてしまうとも考えられる。でも実際には、私のクリニックだけでなく、転移がんやステージ4を克服して元気になった方は少なくないのです。もちろんデータやエビデンスも大事ですが、最も重要なのは患者さんとよくコミュニケーションを取り、その価値観を理解したうえで、医師の臨床経験や培ってきた思想なども含めて、総合的にどんな治療法がいいかを考えることなのです」

 果たして、船戸院長はどのようにして現在の治療法や医師哲学へと辿り着いたのか。船戸院長は1959年、岐阜県洞戸生まれ。洞戸は緑色の澄んだ清流美しい、山間の村だ。愛知医科大医学部を卒業後、岐阜大第1外科に入局。消化器専門の腫瘍外科医として、胃がんや大腸がんを中心に肺がんや乳がんの手術もするなど、数々の病院でメスを握った。

「自分で言うのもなんですが、正直手術の腕は良かったと思います。時間をかけずに出血を最小限に抑える、きれいな手術は得意だった。小さいころからプラモデルなど手作業が好きだったから、器用なんですね。ブラック・ジャックに憧れて、医師を目指したんです」

◇がんの原因まではメスで切れない

 がんは手術できれいに切り取ればなくなる。そんな西洋医学の常識に従い、手術や手技の上達に誠意、努めた。しかし、芽生え始めた違和感は、やがて自身の心を大きく揺るがしていく。

「がんそのものは切り取れたとしても、再発する人も多い。がんというのは、出てくる原因があるのではないか。自分は、そのがんの原因までメスで切り取ることはできない。それでは、患者さんを治したことにならないのではないか。年を取るごとにその思いはますます強固になって、メスを捨てる決心をしたのです。外科医になって11年目のことでした」

 がん終末期には、「自宅へ帰りたい」と望む患者が多いことから、在宅医療をやろうと、35歳の時に船戸クリニックを開業した。90年代、介護保険もない時代に在宅医療を行う医師は少なかった。だが、船戸院長は自分なりに高邁(こうまい)な精神を抱いて、在宅医療の道へ入った。その後、介護保険が整備されると、デイケアやデイサービスなどの通所系施設、認知症患者のグループホーム、訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所も設備した。

 48歳の時、さらに在宅医療を充実させるために3億円の借り入れを決断する。クリニックを共同経営する医師であり、妻である博子さんから、「それなら一度、人間ドックを受けてみて」と言われた。そこで、自らもがんに侵されていたと知る。CT画像には、左腎に6㌢もの大きさの腫瘍が写っていた。

「自分はがんなのか、いや、がんじゃないと、もうそれは本当に混乱しました。死を意識して震えたり、気がつくと呆然(ぼうぜん)としていたり。これまで医師として、落ち込む患者さんを励ましたことも多々ありました。でも、自分が患者という立場になってみると到底、大丈夫だなんて思えない。腎臓など泌尿器系腫瘍の多くが悪性で、良性は少ないんです。放射線も抗がん剤も効きづらいので、手術で取るしかないのは明らかでした」

 思いは乱れて、定まらなかった。しかし、やがて一つの考えへと着地する。

「メスだけではがんには勝てないと悟って、私は患者さんに高濃度ビタミンCやリンパ球の点滴療法、オゾン療法や水素吸入療法、温熱療法などさまざまな補完代替医療を行っていました。これは、神様が〝お前自身の体で治療法を試せ〟と言っているのだ、と」

 腫瘍は6㌢もあったが、ステージはあまり高くなく、1bとの診断だった。がんの切除手術後はしばらく、自然の広がる故郷で療養生活を送った。

「大自然の中を歩いて、瞑想(めいそう)して過ごしました。外科医としてメスを振るっていたころは、がんはやっつけるべき憎い敵だと思っていた。その後、自分のクリニックを開業してからは緩和医療を追求してきた。でも、そもそもなぜがんという病気になったのか、という根本的なことを本来は探るべきだと気づいたのです」

◇がんは体を省みない生活の集積

 それまでの医師としての日々は多忙だった。患者の容体によっては夜中に起こされることも少なくない。勤務医のころは診療時間の合間を縫うように昼ごはんはカップラーメン、小腹がすいたらスナックパンをつまんでいた。そして当直の夜はカツ丼、カレーライスやファストフード。「育ち盛りの高校生のようだった」と振り返る。冷たい清涼飲料水も好きで、体は常に冷えた状態だった。

「〝免疫を上げることを心がけて、毎日きちんと眠り、食事に気をつけてください。運動もするように〟と常々患者さんに言っているのに、何一つ自分はできていなかったのです」

 がん細胞は、健康な人の体の中でも毎日5000個ほど生まれる。現代は2人に1人ががんに罹(かか)る時代だが、じつは誰もが、がん細胞を体に発生させているのだ。でも健康な人であればそのがん細胞を、免疫細胞のリンパ球が退治してくれている。ただし、間違った生活習慣などにより免疫細胞や自然治癒力がきちんと機能しないと、がん細胞が生き残ってしまう。がんが5㍉の腫瘍として画像診断可能な大きさになるころには、がん細胞は約2000万個にまで増殖している。そこまでがん細胞が増えるには、10年ほどかかると現代の医学では考えられている。体を省みない暮らしの集積が、がんを生んでしまったのだ。

「がんは、それまでの生き方と習慣化の結果だから、メスや放射線、抗がん剤治療でたとえ腫瘍を取り除いても、生活を変えなければ、再発してもう一度出てくるのは当然です。がんを攻撃して撃退するのではなく、がんをよく知って、その根本原因を取り除くことが大切です。がん細胞もまた、自分自身の細胞の一部だから〝がんに勝つ〟というと、自分自身と闘うことになってしまう。それよりがんの声に耳を傾けるのです」

 摘出手術を行ったあとは、再発防止のために食事の改善をはじめとするさまざまな方法を試してみた。そうして辿り着いたのが「がんに克つ5カ条」の生活習慣である。「睡眠、運動、加温、良食、笑い」。冒頭の余命3カ月のIさんもこの生活法のみで、がん細胞に劇的な変化が表れた。船戸院長自身は現在もその暮らしを実践し、がんの経過観察を続けている。

「検査では写らないけれど、私の体の中に、まだがんはいると思っています。でも私が生き方を転換して免疫を活性化させた生活を送っていれば、仮にがん細胞が残っていても、それ以上大きくならずに日々、普通に暮らしていける。そのことを、がんが教えてくれたのです」

「睡眠、運動、加温、良食、笑い」習慣の項目は、どれも健やかに日々生きていくうえでは当然のことのように思える。だが、「この大切な五つを本当に実践できている人というのはとても少ないのです。私はがんになって、あたり前のことをあたり前にやる、その重要性に嫌というほど気づかされました」と船戸院長は言う。

 では、その5カ条の暮らしを具体的に見ていこう。

1 睡眠習慣

「がん治療において最も重要なのはがん細胞を退治し、治す時間を確保することです。それが睡眠中で、がんが退治される時間は夜がメインになる。良好な睡眠を取っていれば、治そうと思わなくてもたくさんの修復ホルモンが放出されて、免疫力が働き、体が勝手に治してくれるのです」

 船戸院長は夜10時から朝6時までの8時間睡眠を勧める。天体のリズムに伴い、脈拍数、呼吸数、体温変化など人間のバイオリズムも規則正しく動いている。だから毎日、同じ時間帯に睡眠を取ることが重要だ。

「睡眠を妨害するのは、仕事と痛みと不安です。睡眠時間を削って仕事をする人を私は〝熱心だ〟などと褒めません。仕事のやり方や時間の使い方を見直すべきです。良質な睡眠のために、がん患者さんで痛みを抱えている人であれば、薬で取り除きます。そして再発したらどうしよう、腫瘍マーカーが上がったらどうしようという不安は捨てるように、と話しています。不安は未来から、後悔は過去から来ます。すでに終わった過去、まだ実体がない未来にとらわれず、今を楽しみ、今を思い切り生き抜く。この生き方こそが、がんが自然に消えていく暮らし方なのです」

 眠る時は部屋を真っ暗にすることが望ましい。目だけではなく、人間は両耳、両手のひらにも光を感じるセンサーがあるので、たとえアイマスクをしていても、耳と手で光を感じ取ってしまうからだ。ただし、どうしても怖い人は少しだけ明かりをつけても構わない。

2 運動習慣

「朝に最低30分、できれば1時間歩いてほしいのです。1時間で4~5㌔歩く計算になります。朝日を浴びながら歩くとセロトニンというホルモンが分泌されます。セロトニンは脳内で働く3大神経伝達物質の一つで、精神の安定に深く関わっていることから幸せホルモンとも呼ばれています。このセロトニンは15時間ほど後に睡眠ホルモンのメラトニンに変わるのです。そのメラトニン分泌の3~4時間後に睡眠波が出る。つまり朝の運動と良好な睡眠はセットなのです」

 それだけではない。なによりがんは酸素を嫌う。だから有酸素運動で体にたっぷりと酸素を取り入れることが肝要だ。

「がん細胞は、酸素不足で冷えた状態の人間の体を好み、その環境下で生き延びます。だから体内に酸素が多い状態を作ります。酸素が多いと反対に、がんを取り締まる免疫のリンパ球が元気になるからです」

 その有酸素運動の途中でもし可能なら100㍍ダッシュを1~2本入れる。歩くのは有酸素運動、ダッシュで走るのは無酸素運動となる。無酸素運動をすると筋肉に乳酸が溜(た)まり、それがミトコンドリアの餌となって、やはりリンパ球が活発化する。

3 加温習慣

「運動を勧める理由はもう一つ、体温が上がることにあります。がんは熱が苦手で、42・5度以上で死滅するといわれているのです」

 熱をがん細胞にあてるオンコサーミアという高加温治療も、船戸クリニックでは行っている。

「こういった治療を受けなくても、お風呂に入ることで体温を上げられます。お勧めはHSP(ヒートショックプロテイン)入浴法です。HSPとは細胞の損傷を防ぐたんぱく質のことで、どの細胞の中にも存在しています。熱刺激を与えるとHSPが細胞の中で増えて、遺伝子を修復したり、変性したたんぱく質を取り除いてくれる。さらにHSPにはストレス防御作用、免疫増強作用、抗炎症作用などがあり、がん治療には欠かせません」

 まず浴槽の蓋(ふた)を開け、床や壁にシャワーをかけて浴室内全体を温める。そして湯につかりながら舌の下で体温を測り、38度まで上がるようにする。お湯の温度と時間の目安は42度なら入浴10分、41度だと15分、40度だと20分となる。そして入浴後は10~15分保温する。

「一番重要なのはこの最後の保温時間で、体温を37度以上に保つことで体内のHSPが増えます」

 体を冷やさない心がけも大切だ。夏場もエアコンが利いている場合は上着を着たり、靴下をはいて過ごす。

4 良食習慣

「食事イコール自分の体と考えてください。がんも体の一部ですから、食べたものでできています。非常にシンプルに考えれば、体質を変えたいなら、食事を変えればいいのです」

 がんに効く食事法を挙げていく。

⚫糖質を減らす

「がんは糖質が大好きで、正常細胞の4~8倍もの栄養を必要とします。だから糖質は減らしたほうがいい。がんが大きく発育すると、周囲の正常細胞は栄養が奪われた状態になります」

 精製した砂糖ではなく黒糖やオリゴ糖、蜂蜜やメープルシロップを選ぶようにする。米や小麦のでんぷん質もがんの好物だが、玄米や雑穀米、五穀米、そしてパンも全粒粉のオーガニックのものなどを選べば適量食べても問題はない。芋類は繊維が多く、吸収が遅いので取っても問題ない食物だ。

⚫肉も魚も赤身は避ける

 抗生剤やホルモン剤、農薬を使った飼料を食べている牛や豚の場合、その残留薬物が人間の体に入る。どうしても肉を食べたい場合は放牧されて牧草で育ったものか、ジビエにする。

「また環境ホルモンは脂に溶け込むので、私は肉を食べる際には脂は絶対に食べません。それから、がん患者さんには基本的には肉も魚も赤身は避けるように指導しています。その理由は、赤身に多く含まれる鉄分が、体内でがんの原因である活性酸素を産生する触媒になるためです。どうしても食べたいのであれば鶏肉、もしくは魚にしましょう」

⚫緑黄色野菜、海藻やキノコ、豆類は天然の抗がん剤

 がんが最も苦手なのは緑黄色野菜、根菜、海藻類、キノコ類、豆類、発酵食品だ。

「これらは天然の抗がん剤と言ってもいい。野菜は湯通しをしたほうが抗酸化物質であるファイトケミカルが活性化します」

 野菜や果物は皮や種に多くの抗酸化物質が含まれているので、丸ごと食べたい。「にんじんジュース」は無農薬のにんじん3本、りんご1個とレモン半分をミキサーにかける。がん予防なら200㍉㍑、がん患者なら400㍉㍑を毎日飲む。また野菜スープも栄養素をくまなく取れる。野菜を5種類以上入れ、そこに海藻やキノコ、豆類を加えて煮込むだけだ。

⚫煮る、蒸す、茹(ゆ)でる調理法にする

 焼く、炒める、揚げるという調理法より、煮る、蒸す、茹でるほうががん化を防ぐことができる。

「過剰な活性酸素により正常細胞ががん化することが知られています。食材に焼き目をつけたり、焦がしたりすると、たんぱく質が糖化によって変性したAGEs(終末糖化産物)になる。それを食べると、生体内の抗酸化酵素の能力を弱めてしまいます」

⚫腸内環境をリセットする断食を取り入れる

 我々の体の細胞数は37兆個ともいわれるが、腸内細菌は100兆個もあるといわれる。それだけに腸内細菌叢(そう)の変化は、体調に大きく関係している。

「腸内細菌は当然ながら、食べ物によって変化します。腸内環境をリセットし、宿便を出す断食を一度、行ってください。そうしてから植物性の食品を中心に取りつつ、新しい腸内環境を作り上げていきます。臭いおなら、黒っぽい便は不規則で好ましくない食事の表れです。本当に体調がいい時の便は水に浮く、と覚えておいてください」

 船戸院長は、現在も1年に3回、3日間の断食を実践している。

「ただし末期のがん患者さんの場合は栄養不足に陥る可能性があるので注意が必要です。まったく食べないと、がんもろとも体も弱ってしまう。栄養学を勉強している医師などの指導のもと、バランスを考えながら食事を取る必要があります」

5 笑い習慣

「私は患者さんとよく笑います。笑いはどんな治療より効果があると考えています。笑いは免疫を上げるツールであり、あなたらしい本来的な人生を取り戻した時の幸せの表情です。笑いは手段であり、ゴールでもあると覚えておきましょう」

 NK(ナチュラルキラー)細胞はがん細胞を退治してくれる重要なリンパ球の一種だ。そのNK細胞は笑いの作用によって活性化することはよく知られている。楽しくなくてもニコッと笑顔の表情を作るだけで、免疫機能が活性化することもわかっている。

「笑うことと同様に、泣くのもいい。泣くという行為には浄化作用があります。何より自分の中に感情を溜め込まないことが大切です」

◇がんは自分の生を見つめる機会

 この暮らしを実践したうえで、もしがんになった場合の心のありようを、船戸院長はこう語る。

「がんに罹ったと知った時は、誰もが大変なショックを受けます。でもがんは、悪者ではない。がんになると〝これでお終(しま)い〟と思いますが、それは違います。一度立ち止まって、それまでの生き方を反省するまたとない機会なのです。体はただ〝今の生き方ではもう時間がないよ〟とメッセージを出してくれただけ。それが、がんなのです。自分の間違いに気づき、治療後に命がけで生き方を転換された人は再発しにくい。逆にさっと腫瘍だけ切り取って早々に現場復帰したいと望み、それまで通りの暮らしに戻る人は再発しやすいのです。多くの患者さんを見て、そのことに気づきました」

 一方で、「がんを治すこと」だけを目的化して生きてはいけない、とも話す。

「これまでの医学や教育により、私たちはがんと聞くと知らず知らずのうちに敵と決めつけていました。確かに、日本ではがんは、死因の1位となっています。まぎれもなくがんは死に至る病であり、がんが治らなければ命を落とします。でもたとえがんが治っても、誰もがいずれ、死を迎えるのです。すべからく私たちは全員、死にゆく存在です。それが宿命なのです。

 だから私は患者さんに、がんを治すのを至上命題にして生きないように、とも伝えています。自分がこれからの人生で本当にやりたいことをやるためには、がんはないほうがいい。だから、がんの言いぶんをしっかり聴く努力をしよう。私たちは死なないために生きるのではなく、楽しむために、本当にやりたいことをやるために生まれてきたのです。がん患者になって、自分もその思いに辿り着いた。今は、がん細胞も含めた、私を構成するすべての体の細胞への感謝の思いでいっぱいです」

※治療の詳細は船戸クリニックのHPにて https://www.funacli.jp/

本誌/鳥海美奈子

7月23日発売の「サンデー毎日 7月14日号」には、ほかにも「自らも発症した元外科医が教える『がんに克つ5か条』」「9浪の教育ジャーナリストが語る就活『30歳の壁』」「10ページ大特集! アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』」などの記事も掲載しています。

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