日本の活火山/7 阿蘇山(熊本県)㊤ 中岳火口に湯だまりが戻っても活動は活発/193
九州にある17の活火山の中でも、阿蘇山(熊本県)は現在も活発な噴火を繰り返している。中央にある中岳火口の周辺には毎年多数の観光客が訪れるが、過去には火山災害も多発している。1958年6月の爆発では犠牲者12人が出た。夜間に爆発したため被害は比較的限られたが、天気の良い昼間であれば1000人以上の死者を出す可能性もあった。
最近では2009年から小規模噴火が発生するようになり、14年11月~15年4月は赤熱したマグマを噴き上げる「ストロンボリ式噴火」が観測された。さらに、15年9月や16年10月にはマグマが地下浅部で火口底にたまった水と接触する「マグマ水蒸気爆発」が発生した。
中岳火口ではエメラルドグリーンの湯がたまる「湯だまり」の状態が長く続いていたが、当時はマグマの活動が活発化しつつあり、熱によって干上がり始めていた。また、21年10月の噴火では火口から北へ高温の火砕流が1600メートル流下し、大きな噴石が南へ900メートル飛来したが、幸い人的被害は出なかった(本連載の第74回を参照)。
阿蘇山では数十年に約1回の割合でマグマ水蒸気爆発を起こしている。現在の状況を「長尺の目」で振り返ると、二つの特徴を指摘できる。
まず、11年に発生した東日本大震災以降、日本列島に111確認されている活火山のうち、約2割に当たる火山の地下で地震活動が活発化し始めていることである。その中に阿蘇山も入っており、1000年ぶりに起きたマグニチュード(M)9の巨大地震の影響は少なくとも数十年は続くと考えられるため、阿蘇山の小規模噴火はこれからもやむことはないだろう。
熊本地震で再開か
これに加えて、16年4月に起きた熊本地震との関連である。地震の2日後に中岳火口から約100メートル噴煙が上がり、10月に爆発的噴火によって1万1000メートルまで噴煙が上昇した。
熊本地震の震源と阿蘇山は「大分─熊本構造線」という地質境界上にあり、過去600万年にわたって地震と噴火が連動を続ける特異な場所「豊肥(ほうひ)火山地域」の南端に位置する。南端部分での地殻変動は10万年単位で地震と噴火を繰り返しており、その活動が16年の熊本地震を契機に再開したと考えられる。
阿蘇山では今年5月に地下の熱水やマグマの動きを示す「火山性微動」の振幅が増加し、また1日当たりの火山ガス放出量が1600トンと多い状態になったことから、気象庁は噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)に引き上げていた。その後、火山性微動と火山ガスの状態が低下したことから、7月に噴火警戒レベル1(活火山であることに留意)に引き下げたが、長期的にはマグマの活動が活発化している可能性が高い。
熊本地震以降、中岳火口の「湯だまり」は美しい緑色に戻ってきたが、阿蘇山は過去には中岳の噴火をはるかに上回る巨大「カルデラ」噴火も起こしている。これについては次回、詳しく紹介しよう。
■人物略歴
かまた・ひろき
京都大学名誉教授・京都大学経営管理大学院客員教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。
週刊エコノミスト2024年8月27日・9月3日合併号掲載
鎌田浩毅の役に立つ地学/193 日本の活火山/7 阿蘇山(熊本県)/上 「湯だまり」戻っても活動は活発