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教養・歴史 鎌田浩毅の役に立つ地学

日本の活火山/7 阿蘇山(熊本県)㊦ 海も越えた「破局噴火」の火砕流/194

阿蘇4火砕流が作った台地地形(熊本県産山村、筆者撮影)
阿蘇4火砕流が作った台地地形(熊本県産山村、筆者撮影)

 阿蘇山(熊本県)は全国にその名が知られるが、地学的には阿蘇山という単体の火山はない。東西18キロメートル、南北25キロメートル、周囲100キロメートルの巨大陥没「カルデラ」の中に高岳(たかだけ)、中岳(なかだけ)、烏帽子岳(えぼしだけ)、杵島岳(きじまだけ)、根子岳(ねこだけ)で構成する「阿蘇五岳」が「中央火口丘群」を形成しており、この五岳を総称して「阿蘇山」と呼ばれている。

 阿蘇山の有史以降の噴火は中岳に限られており、最も古い記録が553年にある。それ以前の噴火を噴出物によって詳しく調査すると、27万年前、14万年前、12万年前、9万年前に大規模な火砕流が発生し、地下のマグマだまりが空洞になって地盤が陥没した結果、カルデラができたことが分かった。こうしたカルデラの内側で5万人が活火山と共生している地域は、実は世界的にも例がない。

 九州には阿蘇カルデラから噴出した火砕流の堆積(たいせき)物が広く分布している。これらは低いところを埋めて平らな地形を作っている。四つの火砕流にはそれぞれ番号が振られており、最後の「阿蘇4火砕流」は最も遠方ではカルデラから170キロメートル離れた山口市に到達し、また最も厚いところでは熊本、大分県で百数十メートルも堆積した。

 阿蘇4火砕流は有明海を越えて島原半島に渡り、また山口県にまで達した事実は、高温の火砕流が水とほとんど接触しないほど高速だったばかりでなく、水上では障害物がないため、減速することなく遠方まで流れた可能性を示す。さらに、火砕流から巻き上げられた大量の火山灰は上空30キロメートルにまで立ち昇り、1600キロメートル離れた北海道の東部に最大15センチメートルも降り積もった。

産総研が分布図公開

 こうした阿蘇4火砕流の噴火は、過去10万年の日本列島では最大規模で、世界でも7万4000年前のインドネシア・トバ火山噴火に次ぐ2番目の規模の巨大噴火である(本連載の第58回を参照)。噴出量は火山爆発指数(VEI)では最大の8に相当し、九州北部を壊滅させただけでなく、日本列島の全域を火山灰まみれにしたため、動植物の成育を大きく妨げたと考えられる。

 なお、VEIは1段階上がると噴出物の量は10倍となり、VEI6以上でカルデラが形成され、VEI8の噴火は地球規模の気候変動を起こす可能性がある(本連載の第165回を参照)。この規模の噴火は「破局噴火」とも呼ばれ、日本列島では1万年に約1回の頻度で起きている。

 産業技術総合研究所は昨年、阿蘇4火砕流の流下した範囲を「火砕流堆積物分布図」として公開し、分布図やGIS(地理情報システム)データが産業技術総合研究所サイトからダウンロードできる。阿蘇山は私が20代で火山研究を始めた山であり(『火山はすごい』PHP文庫を参照)、中岳の美しい湯だまりから巨大カルデラ噴火までそのスケールの大きさを実感してほしい。


 ■人物略歴

かまた・ひろき

 京都大学名誉教授・京都大学経営管理大学院客員教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。


週刊エコノミスト2024年9月10日号掲載

鎌田浩毅の役に立つ地学/194 日本の活火山/7 阿蘇山(熊本県)/下 海も越えた「破局噴火」の火砕流

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