今アメリカで46年前のロバート・ケネディ伝が読まれる理由 冷泉彰彦
40年以上前の政治家の伝記が読まれるという異例の現象が起きている。歴史家アーサー・シュレジンジャー(政治家のシュレジンジャー氏とは無関係)による『ロバート・ケネディとその時代』(原題は『Robert Kennedy and His Times』、1978年刊)がそうで、アマゾンの政治家の伝記本ランキングの中では、近刊のペロシ元下院議長の自伝に次いでベストセラーになっている。
ロバート・ケネディ(RFK)はケネディ大統領(JFK)の弟であり、ケネディ政権当時は司法長官を務めた。兄が暗殺された後は、民主党の上院議員として活躍、1968年に当時のジョンソン大統領が選挙戦から撤退した後は、大統領候補として期待が寄せられたが遊説中に凶弾に倒れた。
今、なぜRFKの伝記が注目されているのか、そこには三つの理由が指摘できる。一つは、今回の大統領選でそのRFKの長男、RFKジュニア氏が「第三の候補」として話題だったからだ。熱心な環境活動家であり、同時にコロナワクチン陰謀論を説くRFKジュニア氏は既に撤退報道が出たが、知名度は高く同氏の父親であるRFKへの関心が寄せられている。
二つ目は、現職のバイデン大統領が選挙戦から撤退した現状が、68年に酷似しているという点だ。RFK没後、混乱の中でシカゴで行われた民主党大会では、無難な選択として当時のハンフリー副大統領が後継候補に選ばれた。その結果、ニクソンに敗れて下野を余儀なくされた。今回の予備選省略に批判的だった人々を中心に、この68年の民主党の経験が再度注目されている。
3番目は、何といってもRFKの活躍した時代が現代と重なるからだ。当時はベトナム戦争が泥沼化する一方で、公民権運動が盛んになり、国内の分断も激しかった。そんな中で、人々はRFKが中道路線で国民をまとめてくれることを期待し、そのRFKが暗殺されると悲嘆にくれた。現代もまたウクライナやガザ戦争、またイランや台湾海峡の情勢など国際環境は困難を極める中、世論も大きく二分されている。そんな中、民主党支持者を中心にRFKという人物への注目が高まっているのだと考えられる。
(冷泉彰彦・在米作家)
この欄は「永江朗の出版業界事情」と隔週で掲載します。
週刊エコノミスト2024年9月10日号掲載
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