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女系天皇議論に反対した寬仁親王の危険な政治活動 成城大教授・森暢平

毎日新聞の単独インタビューに答える寬仁親王(2005年12月18日)
毎日新聞の単独インタビューに答える寬仁親王(2005年12月18日)

◇社会学的皇室ウォッチング!/128 これでいいのか「旧宮家養子案」―第30弾―

 小泉純一郎政権下の女性・女系天皇の検討に対し、特定の政治勢力と結び付いて明確に反対した皇族がいる。三笠宮家にあった寬仁親王(2012年に66歳で逝去)である。一皇族の反対は議論の行方に大きな影響を与え、皇族としての活動の一線を超えていた。(一部敬称略)

 寬仁(ともひと)親王の反対が公となったのは、『読売新聞』(2005年11月3日付)のスクープによってである。寬仁自身が会長を務める福祉団体「柏朋(はくほう)会」会報『ざ・とど』(05年9月30日号)で、「とどのおしゃべり――近況雑感」というエッセイを発表した。神武天皇のY1染色体が現在の皇室につながる「事実」をもとに、女性・女系天皇に疑問を投げかけたのである。寬仁親王は「世界に類を見ない我が国固有の歴史と伝統を平成の御世(みよ)でいとも簡単に変更して良いのか」と危機感をにじませたうえで、「国民が、『万世一系の天子様』の存在を大切にして来てくれた歴史上の事実とその伝統があるが故に、現在でも大多数の人々は、『日本国の中心』『最も古い家系』『日本人の原型』として(略)敬って下さっている」と主張した。敗戦後に皇籍離脱した元宮家皇族の復帰などの方策を取ることが先で、女性・女系天皇には反対の意思を示したのである。

 皇族は、基本的に政治的な発言はしない。だから、寬仁親王は「プライヴェート」に語るという体裁を取ったと釈明する。追いかけ取材に対し「会報は柏朋会が金銭面などで支援している福祉団体など友好団体や個人に600部発送しているもので、売り物ではありません。(略)私たち(皇族)は政治的な発言はできないので、ああいう形でしか言えません」と述べた。(『東京新聞』05年11月4日付)。「市販されている物には載せる気はありません」とも付け加えた。

 ところが、その舌の根も乾かぬ11月25日に発売された月刊誌『WiLL』(06年1月号)に、「とどのおしゃべり」全文が転載された。首相の諮問機関「皇室典範に関する有識者会議」が05年11月24日に、女性・女系天皇を容認する報告書を提出し、翌年3月にはその方向での皇室典範改正案の上程が予定されていたから、阻止したいという気持ちが優先したのだろう。

◇「女系容認」せずと天皇の考えを「代弁」

 寬仁親王は発言を続ける。『毎日新聞』(06年1月4日付)のインタビューで「旧宮さま、元宮さまとの付き合いは深い。むしろ愛子さまの夫になった人が、突然『陛下』と呼ばれる方が違和感が強いのではないか」と主張した。さらに、1月10日発売の『文藝春秋』(2月号)では、女性・女系容認が当時の天皇(現在の上皇さま)の意思であると受け止める向きがあったことに対し、「(天皇が)女系を容認せよ、とか、長子を優先とか、そうおっしゃる可能性は、間違ってもありません。(略)非常に真面目なご性格からしても、そのような不規則発言をなさることはあり得ないでしょう」と解説した。

 行き過ぎた言論活動に宮内庁は苦言を呈する。長官の羽毛田(はけた)信吾は1月12日の会見で、「天皇陛下、皇太子殿下(現天皇)は何度かにわたって(発言を)『差し控える』とおっしゃっている」「(寬仁親王にも)そういった観点にお立ちいただきたい」と注意した。しかし、寬仁親王は忠告を無視する。2月1日付の『産経新聞』、同日発売の『正論』(3月号、産経新聞社)にも、女系天皇について「果たして正統性を皆さんが認めてくださるだろうか」と同様の主張を繰り返した。

『朝日新聞』(2月2日付)は「寬仁さま 発言はもう控えては」と題した社説を掲載する。皇室典範の改正が準備されているとき、「意図がなくても、発言が政治的に利用される恐れがある」「一方にくみする発言は控えた方がいい」と指摘した。これに対し、翌2月3日付の『産経新聞』社説は、「発言を封じようとする社説は、言論・報道機関として、守るべき一線を超えているように思われる」と、『朝日』を批判した。メディア機関同士の論争となったのである。『朝日』は抑制的に書くが、寬仁親王は特定の政治団体と結びついて発信し続けたと私は思う。保守系団体、日本会議の機関誌『日本の息吹』2月号(1月24日発刊)に登場して、インタビューに応じているからだ。

◇日本会議と「連携」 一線を越えた活動

 日本会議系の「皇室の伝統を守る国民の会」が日本武道館で開いた「皇室の伝統を守る一万人大会」(3月7日)では、寬仁親王はさすがに出席こそしなかった。しかし、外交評論家の加瀬英明が「寬仁親王殿下のご発言」と題して意見を表明した。加瀬は「ご発言によって、多くの良識ある国民が皇族のご意向に接して深い安堵(あんど)の念を抱いた」「秋篠宮殿下、常陸宮殿下も男系による皇位継承を廃することに強い危機感を抱いておられると漏れ承っております」と踏み込んでいる。

 寬仁親王は、この大会にあわせて、インタビュー集『皇室と日本人――寬仁親王 お伺い申し上げます』を出版した。出版元は、日本会議副会長(当時)、小田村四郎が社長を務める明成社であった。

 私は、皇族に発言の自由がないとは思わない。しかし、憲法の規定から発言する自由が制限される天皇の了解も得ず、当の天皇が、女性・女系継承に賛成していないかのごとく述べるのは、皇族として反則である。

 平成の天皇は、少なくとも女性宮家の創設には積極的であった。2011年10月、民主党の野田佳彦政権当時、宮内庁長官の羽毛田は首相に働きかけ、女性宮家の創設を訴えている。宮内庁長官が独自の考えで動くはずがなく、天皇の意思があったことは明らかだ。この動きは、女性宮家を検討した翌年の「皇室制度に関する有識者ヒアリングを踏まえた論点整理」へとつながる。

 一方の寬仁親王は、亡くなるまでの数年、女性・女系天皇に反対する者たちの活動のハブとなった。保守系有識者や活動家たちを宮邸に招き、「反対」の動きを陰に陽に支援した。そうした活動は、皇室の政治的公平性を脅かす危険な活動だったと言える。

<サンデー毎日10月6日号(9月24日発売)より。以下次号>

■もり・ようへい

 成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮新書)、『天皇家の恋愛』(中公新書)など

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