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新政権で議論は滞る 石破首相の変節とブレ 成城大教授・森暢平

皇位継承問題は塩漬けか。写真は首相官邸での記者会見(10月1日 代表撮影)
皇位継承問題は塩漬けか。写真は首相官邸での記者会見(10月1日 代表撮影)

◇社会学的皇室ウォッチング!/130 これでいいのか「旧宮家養子案」―第32弾―

 皇位継承問題でも新首相石破茂はブレブレである。もともと女系容認と見られた石破だが、総裁選が始まると旧宮家養子案支持に傾く姿勢まで見せた。短期間でここまで変節する政治家も珍しい。石破が首相である限り、皇位継承議論が滞るのは確実だ。(一部敬称略)

 今回の自民党総裁選を睨(にら)んで出演した8月4日のネット番組「ABEMA的ニュースショー」で石破は、「我々、安全保障を仕事としてきた者は、あらゆるリスクというものを考えて、『想定外でした』『考えてもいませんでした』みたいなことを言ってはいけない」と皇位継承を、自分が得意の安全保障分野に類比したうえで、次のように続けた。

「悠仁さまがお継ぎになる。それは当然あるべきことだ。でも、その後は一体どうなるのと。あるいは、あってはならないことだが、100万が一、1000万が一でもいい。そういうことがあったらどうするのってことは、考えておかなきゃいかんことなんでしょうね」と述べた。現行の皇室典範のもとで皇位継承者が絶える事態(そういうこと)があり得るから、リスク軽減のための対策が必要だと述べたのである。

 ここで石破は「男系の女性天皇の可能性、そして女系の男性天皇の可能性、これを全部排除して議論するというのはどうなんだろうね」と疑問を投げ掛けた。「(万が一のことを)考えるのは、我々の仕事じゃないかな」と女系容認を含めての議論が必要と主張したのである。

◇女系容認とまでは言っていないと強調

 石破は2020年9月の総裁選でも「悠仁さまにかかるご負担は想像に絶するものがある。男系の女性天皇は当然ありえるが『女系』という選択肢は排除されるべきではない」と明確に女系を含めた検討を訴えた(『朝日新聞』20年9月8日)。だから、「女系を含めての検討」は石破の政治的信念だと判断できる。

 ところが、石破は少しずつ発言を変化させた。今年8月28日、政治解説者、篠原文也が主宰する「直撃!ニッポン塾」で、「女系天皇を容認しているのか」と問われた石破は「完全に排除して議論すべきではないと言っているだけだ。容認するとは言っていない」と説明した。もっとも「最初から(女系議論を)排除して考えるものではない」というスタンスは維持した。「石破氏が女系容認」と報じられたので、「女系」を議論の俎上(そじょう)に載せるとは言ったが、容認するとまでは言っていないと釈明したのである。

 総裁選が告示された9月12日のフジテレビ系の夕方の報道番組「イット!」では、総裁候補の小林鷹之から「女系天皇を容認しないのであれば、なぜ考えを改められたのか」と突っ込まれた。石破は「いままで男系男子でやってきた。それが日本の伝統だ」とし、そのうえで「いろんな議論は当然ありうる」と答えた。答えが曖昧だったため小林が「女系を容認しないというふうに受け止めてよろしいでしょうか」と確認したのに対し石破は「大事なのは、いかにして国民統合の象徴の皇室をお守りしていくかということです」とさらに答えをはぐらかした。ただ、このころから「男系男子の伝統は大切だ」と、ことさらに「男系男子」を口にするようになる。保守派の支持を得るため、女系検討発言は後退させたのである。

◇補佐官にした長島の男系固執にすり寄る

 踏み込んだのは9月14日、石破の推薦人となった衆議院議員長島昭久の動画「あきチャンネル」での発言である。

 長島から「ズバリ、女系天皇容認か否かを問いたいと思います」と聞かれた石破は、「それは男系男子が最優先でありますよ。いま、悠仁さまがおられるわけだから、それは男系男子で継承できるわけです。これから先もそうあるべきだ。それを守っていくというのは当然のことであります。(略)天皇さまというのをどうやってこれから先もきちんとお守りしていくかということなのであって、いかにして男系男子で継承していくかということについて、あらゆる方法を尽くして、やっていかねばならないということであります。もうそれ以上でも、それ以下でもない」と答えた。さらに、「男系男子でずっと継承してきたのだから、それを変えるって理由はどこにもないわけですよ」と続けている。

 驚くべきである。これまでは、皇統が絶えるというリスクを回避する目的で、あらゆる議論を排除しないと述べていたのに、ここでは、男系男子で継承するためにあらゆる方法を尽くすと変わっている。あらゆる議論や方法の目的が、男系継承維持にすり替わっているのだ。

 長島はネットの世界では、旧宮家養子案を強く推している。この日も最後に「旧宮家の男系子孫の方々を含めてですね。やはり男系で継承していくというために、万策を尽くすということに尽きるんだろうと思います」と強調した。これに対して石破は何も発言せずに対談は終わる。ただ、長島の旧宮家発言の間、石破は3回うなずき、長島に同調しているようにも見えた。

 長島は、国家安全保障などを担当する首相補佐官として官邸入りした。外交、防衛、安保で石破の右腕となるわけである。そこで補佐してもらう代わりに、皇位継承政策では長島に寄っていったというふうに見える。

 女系容認の論陣を張る漫画家小林よしのりが主催する「ゴー宣道場」に、石破は何度か登場し、女系容認的な態度を示している。小林はブログで、「石破茂と長島昭久の動画見たか? あそこまではっきりと、男系固執なら、もっと早く言ってくれよ。(略)政治家って汚いよなあ。平気で騙(だま)して、権力の座が見えりゃ、あっという間に手のひら返すもんなあ」と嘆いた(10月1日)。その怒りは、むべなるかな、である。

 石破はあらゆる場面で女系を含めた議論が必要だと一貫して述べてきた。しかし、権力を前に保守派に言質を取られ、身動きができなくなってしまった。石破政権が続く限り、皇位継承問題が塩漬けになるのは確実である。(以下次号)

もり・ようへい

 成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮新書)、『天皇家の恋愛』(中公新書)など

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