教養・歴史 鎌田浩毅の役に立つ地学

北海道・三陸沖後発地震注意情報にも備えを/198

 8月8日に宮崎県沖でマグニチュード(M)7.1の地震が発生し、気象庁から「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が出された(本連載の第197回を参照)。こうした巨大地震の臨時情報は南海トラフだけでなく、2022年から北海道から三陸沖を震源とする海域で発生する巨大地震に対しても運用される。

 北海道から岩手県の太平洋沿岸地域では、海底に最大の深さが10キロメートルを超える海溝が形成されている。房総沖から青森県東方沖の海溝は「日本海溝」と呼ばれ、十勝沖から択捉(えとろふ)島沖およびそれより東の海溝は「千島海溝」である。

 いずれも日本列島を構成する北米プレートの下に沈み込んでいる太平洋プレートが数百年に1度跳ね返って巨大地震を発生する震源域が形成されている。これらの地震はまとめて「日本海溝・千島海溝巨大地震」と呼ばれており、最大M9.3の地震が想定されている(本連載の第89回を参照)。

 過去にこの海域の沿岸を襲った津波堆積(たいせき)物の調査から、最大クラスの津波の間隔は約300~400年であることが判明している。また、17世紀に起きた津波からの経過時間を考えると、いずれの領域でも巨大津波の発生が切迫している状況にある。

 気象庁と内閣府は、海溝沿いに想定された震源域とその周辺でM7.0以上の地震が発生すると、「北海道・三陸沖後発地震注意情報」を発表する。これは、大規模地震が発生する可能性が平常時より相対的に高まったと判断するもので、8月8日に出された南海トラフ地震臨時情報と同じように、1週間を区切って種々の防災対応が呼びかけられる。

 こうした注意情報や臨時情報は、すでに発生したM7地震の後で、さらに大きな地震、すなわち「後発地震」の発生時期や場所・規模を予知するものではない。さらに、大地震の発生が平常より相対的に高まったといっても、後発地震が発生しない場合の方が経験的には多い。

見逃しより空振り

 その一方で、防災対応を呼びかける期間の1週間が経過した後に、突如として大規模地震が発生する可能性は否定できない。このように不確実性が高い情報ではあるが、大地震発生への警戒を呼びかけたが起きなかった「空振り」よりも、呼びかけずにいる間に地震が起きて甚大な被害が発生する「見逃し」を減らす意図で設計されている。

 北海道・三陸沖後発地震注意情報を発表する最大の理由は、過去にこの海域で後発地震としての大規模地震が発生した事例が知られているからである。具体的には、M7.0以上の地震発生後、7日以内にM8クラスの後発地震が発生する確率は100回に1回程度となり、地震発生の可能性は相対的に高まる。一方、1週間のうちに後発地震が必ず発生するわけではないことにも注意が必要である。

 したがって、日ごろからの備えを前提とした上で、「次善の策」として最低限の防災対応を行うシステムを多くの国民が理解し、突発的に発生する地震から1人でも多くの人命を救う必要がある。


 ■人物略歴

かまた・ひろき

 京都大学名誉教授・京都大学経営管理大学院客員教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。


週刊エコノミスト2024年10月15日・22日合併号掲載

/198 北海道・三陸沖でも 「後発地震注意情報」に備えを

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