教養・歴史 鎌田浩毅の役に立つ地学

南海トラフ地震臨時情報 命を守るために確認すべき4点/197 

南海トラフ地震臨時情報の呼び掛けが終了し、取材に応じる松村祥史防災担当相(右、東京都千代田区で8月15日)
南海トラフ地震臨時情報の呼び掛けが終了し、取材に応じる松村祥史防災担当相(右、東京都千代田区で8月15日)

 南海トラフ巨大地震の想定震源域に含まれる宮崎県沖で8月8日、マグニチュード(M)7.1の地震が起き、気象庁が「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を沖縄から茨城まで29都府県の707市町村に出した(本連載の第195回を参照)。臨時情報の発表は2019年の制度開始以降初めてで、対象地域に日ごろの備えの再確認といった防災対応が求められた。

 臨時情報は南海トラフ巨大地震の可能性が相対的に高まっていることをいち早く周知し、少しでも被害を軽減するという目的がある。一方、その意味と取るべき対応について、十分に理解が進んでいるとはいいにくい。臨時情報の発表によって宿泊のキャンセルなど思わぬ経済的損失も生じており、情報提供のあり方などを巡って現在も専門家や政府の担当部局で議論が続いている。

 臨時情報には2種類あり、今回出た「巨大地震注意」は想定震源域やその周辺でM7以上の地震が発生したり、揺れを伴わずプレート境界面がゆっくりとずれる「ゆっくりすべり(スロースリップ)」が観測されたりした場合に発表される(本連載の第45回を参照)。対象地域の住民には、1週間程度は日ごろの備えを再確認するほか、必要に応じて自主的な避難も求められる。

 もう一つの「巨大地震警戒」は想定震源域内のプレート境界でM8.0以上の巨大地震が起きた場合で、津波からの避難が間に合わない地域には1週間の事前避難を呼びかける。この「1週間」の根拠は地震学に基づくものではなく行政的な判断で、かつて国が避難生活に耐えられる期間のアンケートを取った結果から総合的に判断したものである。

実際は高くない結果

 これまで国が発表しているように、南海トラフ巨大地震が今後30年以内に70~80%の確率で起きる点は変わらず、臨時情報が出た際に巨大地震が起こる確率は0.1~0.5%ほどわずかに上がる。しかし、急激に高くなるわけではないので、臨時情報…

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週刊エコノミスト

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