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国連「勧告」で分かった日本政府の独善的対応 成城大教授 森暢平

社会学的皇室ウォッチング!/133 ◇これでいいのか「旧宮家養子案」―第35弾―

 国連女性差別撤廃委員会(CEDAW〈セダウ〉)は10月29日、日本の女性差別に関する状況を審査したうえで、「最終見解」を発表した。そこには男系男子に皇位を限る皇室典範の改正勧告も初めて含まれた。日本政府は強く抗議するというポーズを見せたが、国際社会との溝は大きく、対応の独善性が目立っている。(一部敬称略)

日本は1985(昭和60)年に女性差別撤廃条約を批准し、男女共同参画社会基本法制定など各種施策に取り組んできた。条約は、各締約国に対し、国内状況を定期的に報告することを求めている。CEDAWは2020(令和2)年3月、日本の「第9回報告書」に向け、質問リストを提示。そこには「皇室典範に関し、女性皇族には皇位継承が認められない規定が含まれるが、女性が皇位を継承することを可能とするために取ろうとする手続き詳細を提供されたい」という項目が含まれていた。

 日本政府は翌21年9月、「第9回報告書」を提出した。皇室典範についての回答は「日本の皇室制度も諸外国の王室制度も、それぞれの国の歴史や伝統を背景に、国民の支持を得て今日に至る。皇室典範が定める皇位継承のあり方は、国家の基本に関わる事項である。女性差別撤廃を目的とする条約の趣旨に照らし、委員会が皇室典範を取り上げることは適当ではない」であった。

「詳細を提供せよ」と言われたのに、CEDAWには権限がないという、木で鼻をくくったような答えである。この年は、皇位継承に関する有識者会議が開催されており、女性皇族が結婚後も皇室に残る案が検討されていたはずである。これは現状改善の一方策なのだから、国際機関に尋ねられたら少なくとも答えるべきだったのではないだろうか。

 女性差別撤廃条約第1条は女性差別を政治的、経済的、社会的、文化的、市民的、その他のいかなる分野における「性に基づく区別、排除、制限」と定義する。ところが日本では、女性差別の包括的定義がなされておらず、「いかなる分野」の例外多数が存在している。皇室は例外の一つであり、「人権の飛び地」であるがゆえ、皇位に関する区別、排除、制限は差別でないという論理が、国内的には成り立ってしまっている。

「典範」は条約に関係 スペイン人議長が指摘

 CEDAWは今年10月17日、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で、「最終見解」をまとめるための対日審査会合を開いた。23人の研究者、専門家からなる委員会が、さまざまな分野についての質問を投げかける場である。答えるのは、内閣府男女共同参画局長、岡田恵子ら代表団約25人。

 キューバの法学者、ジャミラ・ゴンザレス・フェレールは「日本は、皇位の宗教的、文化的文脈を強調するが、条約で保障される原則に基き、男女平等実現のため日本政府に皇室典範改正を提案する」と発言し、内閣官房皇室典範改正準備室副室長、末永洋之は「CEDAWが皇室典範を取り上げるのは適当ではない」と反論した。

 しかし、議長であるスペインの教育学者、アナ・ペラエス・ナルバエスは「CEDAWには、皇位継承の問題を取り上げる権限がないとする日本代表団の回答には同意できない。日本だけでなく、そのような差別的な法律があるすべての国に対して同様な質問をしている。私の出身国スペインもその一つだ。このトピックスは、直接CEDAWに関係する」と指摘した。

 たしかに、CEDAWは19年8月、スペイン政府に対して、きょうだい内では男子を優先する継承法について、どのような改善策があるのか情報を提供するよう求め、23年5月の勧告では男女平等継承を求めた。条約批准にあたり、スペイン政府は王位継承を保留事項としていたため、その撤回を促したのである。スペインで議論が盛り上がらないのは、国王フェリペ6世の子どもが2人とも女性で、次代が王女になることがほぼ確実であるためだ。

 ともかく国際社会の目は厳しい。しかし、日本政府は相変わらず鈍感である。今年10月24日ごろに明らかになった「最終見解」草案には、しっかり「皇位継承」が触れてあった。政府はジュネーブ代表部を通じて抗議するとともに、典範に関する記述を削除するよう申し入れている。その結果、10月29日に公表された「最終見解」には、「皇位継承問題は、委員会の権限の範囲外であるとする締約国(日本)の立場に留意する」という一節が挿入されてはいた。しかし、「CEDAWは、男系男子のみに皇位継承を認めることは条約の目的や趣旨に反すると考える。男女平等を実現した他国の優れた取り組みを参照しながら、皇室典範を改正するよう勧告する」との強い表現が盛り込まれた。

前回は記述を削除 勝ち誇った安倍首相

 実は、一つ前、「第8回報告書」に対するCEDAW「最終見解」(2016年3月)にも、草案段階で「皇室典範」の記述があった。この時、日本政府は、事前質問でも審査会合でも「皇室典範」には触れられていないと指摘し、CEDAW側も「手続き的瑕疵(かし)」を認め、記述を削除した。

 こうした経緯は、保守系議員のナショナリズム意識を刺激し、参院予算委員会(16年3月14日)で、自民党の山谷えり子は「(CEDAWによる)日本の国柄、伝統に対する無理解」だと主張した。当時の首相、安倍晋三は「今回のような事案が二度と発生しないよう、また我が国の歴史や文化について正しい認識を持つよう……機会を捉えて働きかけをしていきたい」と応じた。「日本の正しい姿」を戦略的に発信したため削除に成功したという勝ち誇った口ぶりだった。

 今回の勧告で、官房長官の林芳正は10月30日の記者会見で、事前の申し入れにもかかわらず、皇室典範の記述が残ったことに改めて抗議し、削除を申し入れたと明かした。国内向けに威勢のいい発言だが、こうした一国中心主義(ユニラテラリズム)が、国際社会に受け入れられるはずもない。独善はいずれ限界がやって来る。(以下次号)

 国連女性差別撤廃委員会(CEDAW〈セダウ〉)は10月29日、日本の女性差別に関する状況を審査したうえで「最終見解」を公表した。そこには男系男子に皇位を限る皇室典範の改正勧告も初めて含まれた。日本政府は強く抗議するというポーズを見せたが、国際社会との溝は大きく、対応の独善性が目立っている。(一部敬称略)

(以下次号)

もり・ようへい

 成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮新書)、『天皇家の恋愛』(中公新書)など


「サンデー毎日」11月24日号には、ほかにも「『あと8年で首相になる』山本太郎の政局斬り」「『虎に翼』脚本・吉田恵里香さんインタビュー」「低カロリー&食物繊維たっぷり! きのこで腸活」などの記事も掲載しています。

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