荻上チキの読書日記 当事者性高く翻訳も秀逸 海外コミックの成果
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バンド・デシネ(フランスのコミック)の『見えない違い 私はアスペルガー』(ジュリー・ダシェ原作、マドモワゼル・カロリーヌ作画、花伝社、2200円)は、海外コミックを出しているイメージのない版元の本で意外に思ったが、とにもかくにも読めてよかった。
「アスペルガー症候群」の主人公、マルグリットは、自分の症状のことをうまく言語化できぬまま、生きづらい日々をすごしていた。その彼女から見た日常がどのようなものか、彼女が「症状名」と出会ったことで生活がどのように変化をしたのか。「当事者の啓蒙マンガ」というものにとどまらず、マンガ的表現の妙技が光る描写で活写している。
例えば彼女がパーティーに参加するシーン。発達障害当事者の中には、聴覚過敏の者も少なくなく、聴覚などによる情報処理がうまくいかず、疲弊してしまうことがある。そんな彼女から見た光景は、吹き出しのセリフも効果音もBGMも含めて、フラットに頭に流れ込み、らせんを描いて世界を歪ませるものだ。そうした空間感覚の描写によって、他人への共感可能性を高めることにチャレンジする、表現芸術としても読めた。世界観を、的…
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週刊エコノミスト
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