楊逸の読書日記 政情不安な世界で輝く「粋」なリアリズム
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猛暑猛暑猛暑。目覚めても、自分が金魚さながら、金魚鉢の中で息絶え絶えにもがくという夢が残っている。たぶん窒息するほどの量の汗に溺れたせいだろう。
久しぶりに短編集を読む。『酸っぱいブドウ はりねずみ』(ザカリーヤー・ターミル著、柳谷あゆみ訳、白水社、2300円)。著者は1931年シリア・ダマスカス生まれ。81年に英国に移住したらしいが、アラビア語で創作し続け、2009年に「第1回アラブ短篇小説のためのカイロ会合」賞、15年「マフムード・ダルウィーシュ自由と創造」賞などを受賞した「国際的に知られている作家」だそうだ。
民俗や人情を主題に、皮肉いっぱいのキャラクターたちを登場させ、ちょっとだけずれた感覚で過ごす雑多な日常を描き、人々が住むその土地の最も自然で純朴な匂いを解き放って、その文化の流れの中で一番の「粋」を覗(のぞ)かせる、という批判的リアリズムの一冊だ。
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週刊エコノミスト
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