教養・歴史書評 読書日記

楊逸の読書日記 政情不安な世界で輝く「粋」なリアリズム

×月×日

 猛暑猛暑猛暑。目覚めても、自分が金魚さながら、金魚鉢の中で息絶え絶えにもがくという夢が残っている。たぶん窒息するほどの量の汗に溺れたせいだろう。

 久しぶりに短編集を読む。『酸っぱいブドウ はりねずみ』(ザカリーヤー・ターミル著、柳谷あゆみ訳、白水社、2300円)。著者は1931年シリア・ダマスカス生まれ。81年に英国に移住したらしいが、アラビア語で創作し続け、2009年に「第1回アラブ短篇小説のためのカイロ会合」賞、15年「マフムード・ダルウィーシュ自由と創造」賞などを受賞した「国際的に知られている作家」だそうだ。 

 民俗や人情を主題に、皮肉いっぱいのキャラクターたちを登場させ、ちょっとだけずれた感覚で過ごす雑多な日常を描き、人々が住むその土地の最も自然で純朴な匂いを解き放って、その文化の流れの中で一番の「粋」を覗(のぞ)かせる、という批判的リアリズムの一冊だ。

残り904文字(全文1295文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事