経済・企業特集

大論争 米長短金利逆転 過去3回はすべて景気後退だが要因異なり、類似パターンなし=小玉祐一

    短期金利が長期金利を上回る逆イールドが迫る米国。それが示唆するのは景気後退か、否かを巡り大議論となっている。
    短期金利が長期金利を上回る逆イールドが迫る米国。それが示唆するのは景気後退か、否かを巡り大議論となっている。

     米国における長短金利差の縮小を、景気後退局面入りの兆候とみなすかどうかで識者の意見が割れている。

    特集「大論争 米長短金利逆転」

     代表的な指標である2年債と10年債の金利差をみると、2014年以降、持続的な縮小傾向が顕著になっている(図)。今年に入り、8月末には一時0・2%を割り込むなど、この先逆転も十分考えられる状況である。

    米長短期金利差と米国の景気循環 (出所)明治安田生命作成
    米長短期金利差と米国の景気循環 (出所)明治安田生命作成

     保有する債券の残存期間が長ければ、投資家はその分、価格変動リスクや流動性リスクを抱え込むため、見返りに上乗せ金利(期間プレミアム)を要求する。したがって、長期金利が短期金利を上回る(順イールド)が正常な状態である。

    長期停滞論

     短期金利、長期金利とも、その期間に応じた金融政策、景気、物価の見通しを反映するが、期間が短くなるほど政策金利の動きにより強く影響を受ける。景気拡大局面では利上げが進むため、短期金利の上昇幅が長期金利の上昇幅を上回り、長短金利差は縮小に向かう。景気拡大局面が後半に差し掛かると、短期金利は高水準に達するのに対し、長期金利は徐々に先行きの景気のピークアウトやインフレ圧力の低下を織り込むようになるため上がりにくくなり、ついには短期金利が長期金利を上回る逆イールドの状態となる。これが、次なる景気後退のシグナルとなる。

     景気後退で中央銀行が利下げに転じると、短期金利の低下幅が長期金利の低下幅を上回るため順イールドの状態に戻り、利下げの進展とともに長短金利差は拡大していく。それが次なる景気拡大のシグナルとなる。

     長短金利の逆転は、米国の場合、それほど頻繁に生じる現象ではない。1980年代後半以降で、逆イールドの状態が一定期間続いたのは3回のみである。だが、その3回とも、1~2年後に景気後退局面入りしている。図をみる限り、長短金利差逆転は先行きの景気後退を確実に言い当てているようにみえる。

     一方、今回の長短金利差縮小の主因は、景気や金融政策の見通しとは別のところにあり、過度に懸念すべきではないとの見方も存在する。

     まず前述の期間プレミアムの縮小である。ニューヨーク連銀の手法に従い、10年国債利回りを期待短期金利成分(期待短期金利の期間平均値)と期間プレミアムとに分解すると、2010年前後は2%以上あった期間プレミアムが、足元ではマイナスに転じている。金融危機後に、主要国の中央銀行が軒並み超金融緩和策を採用し、長短金利ともおしなべて低下に向かうなかで、ボラティリティー(変動性)が低下してきたことが、期間プレミアム縮小の一因と考えられる。

     また、低金利下で世界的に高利回りの投資対象を求める動き(イールドハント)が顕著になり、相対的に金利水準が高い米国の国債が買いを集めやすい構図となっている点も大きい。海外からの米国債への資金流入額は、一時流出超の状況にあったが、足元では再び流入超に転じ、その金額も大きく増加している。

     景気循環とは離れた、より中長期的な米国経済の成長性についての疑念が、金利水準に影響を与えている可能性もある。ニューヨーク連銀の試算によると、景気への影響が緩和的でも引き締め的でもない実質利子率である中立金利は、金融危機以降大きく下方屈折している。

     サマーズ元米財務長官が「長期停滞論」で指摘した通りで、これがより中長期的なインフレ期待の低下につながっている可能性もある。物価連動債に織り込まれている中長期的なインフレ率をみると、トランプ政権の誕生後は上昇傾向にあるものの、足元では一進一退の推移となっており、それ以前の大幅低下分を取り戻すには至っていない。

     先行きの金利上昇を抑える短期的な需給要因として、売りポジションの蓄積も挙げられる。投機筋による米10年債のポジションは、足元で大幅ショート(売り越し超)となっており、金利の上昇局面、すなわち国債価格が下落する局面では、売買差益を得るための買い戻しが発生しやすくなっている。

    逆転しない可能性も

     過去、長短金利差の逆転がほぼ確実に景気後退に結び付いてきたという事実は重いが、一方で過去の長短金利差逆転と、その後の景気後退には、その時々でさまざまな要因が働いており、一度として類似のパターンをたどったためしはないことも事実である。過去の例を単純に当てはめることができないことが、果てしなき論争につながっている。

     現時点では、まだ長短金利差の逆転が確定したわけではない点にも注意が必要である。米国のインフレがこのまま加速せず、落ち着いた状態が続くのであれば、政策金利のフェデラルファンド(FF)レートが名目ベースの中立金利に達した段階で、利上げサイクルは終了の可能性が高まる。

     9月の利上げはほぼ確実だが、その後はFFレートが中立金利の予想レンジの範囲に入ってくることから、米連邦準備制度理事会(FRB)はより慎重に景気や物価の先行きを見定めようとする姿勢に転じよう。

     逆に、8月の雇用統計で賃金に伸び加速の兆しがみられた通り、この先インフレ懸念が台頭することで、長短金利差が拡大に向かう可能性もある。トランプ財政による「高圧経済」政策、すなわち総需要が総供給を上回る水準に維持する政策が、中立金利の上昇につながるパターンも期待できないわけではない。各国中央銀行の金融政策正常化の動きが強まれば、ボラティリティーが上昇に転じ、期間プレミアムが再び上昇に向かうパターンもありうる。さまざまな可能性を念頭に置いて相場の動きを見極める必要がある。

    (小玉祐一・明治安田生命チーフエコノミスト)

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