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経済・企業 特集

大論争 米長短金利逆転 景気後退のサイン 利上げ終了局面へ変化=唐鎌大輔

FF金利と米2年・10年金利、中立金利 (出所)FRB、ブルームバーグ
FF金利と米2年・10年金利、中立金利 (出所)FRB、ブルームバーグ

 なぜ、フラット化や逆イールド化(長短金利の逆転)が景気減速ないし、後退のサインとして理解されるのか。基本的に短期金利は政策金利動向を反映すると考えられる一方、長期金利は実体経済のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を反映すると考えられる。

 だとすれば、イールドカーブ(利回り曲線)がフラット化したり逆イールド化したりすることは「ファンダメンタルズの改善を凌駕(りょうが)する政策金利の引き上げ」が行われたという解釈につながる。要するに、引き締めし過ぎという事態だ。金融政策は効果発現にラグがあるので、こうしたことは間々起きる。逆に、不況期に緩和し過ぎてしまうこともある。

 もちろん、今次局面は違うという見方にも一理はある。短期金利よりも長期金利が高水準である理由の一つが期間プレミアムの存在である。期間が長めの債券を保有する場合、価格変動や流動性制約に直面するリスクが大きくなるため、投資家はそのリスクに相当する上乗せ金利を求める。それが期間プレミアムだ。

 長期金利は投資家が予想する「将来の政策金利の平均値」と「期間プレミアム」の合計と考えられている。この点、イエレン前米連邦準備制度理事会(FRB)議長は過去、「今回の金融引き締め局面では期間プレミアムがゼロ近傍で推移しているため、たとえ緩慢なペースで利上げをしてもイールドカーブがフラット化してしまう」と述べたことがある。

 長きにわたる金融緩和の結果、期間プレミアムが消滅し、長期金利と短期金利の差が詰まりやすいのだからフラット化や逆イールド化を過大視すべきではないという主張だ。

前向きな材料ではない

 こうした主張に基づけば、逆イールド化を即、深刻な事態に結びつけるべきではないのだろう。だが、そうだとしてもフラット化や逆イールド化自体が前向きな話ではないことに変わりはない。

 例えば、FRBが警戒するように完全雇用状態で賃金上昇が急激に加速するような未来を本当に市場参加者が心配していたら将来の利上げ継続を織り込み、長期金利はもっと上昇するはずだ。しかし、年初から各種インフレ期待は横ばいであり、インフレ予防という理由から継続的な利上げを正当化するのは理解に苦しむ。現状のイールドカーブは「利上げは間もなく終わる」という局面変化を示しているのではないか。

 ちなみに既に長期金利はFRBが想定する中立金利に到達しており、これを一応の「利上げの終点」と見る向きは多い。図示されるように、利上げ局面における10年金利および2年金利の天井は得てして「利上げの終点」としての政策金利のFF金利水準と近似してきた。現状、米連邦公開市場委員会(FOMC)の想定する中立金利は2・90%であるから、10年金利が3%付近で停滞している事実は、やはり経験則と合う。もうあとはフラット化、逆イールド化を経て局面変化を待つばかりという状況と見受けられる。

 逆イールドが必ず景気の減速や後退を予知するとまで言うつもりはない。だが、米経済の前途が洋々で利上げの継続が見込まれる状況ならば、イールドカーブがそのような形状に陥ることもあるまい。2013年のバーナンキ・ショック以来、過去5年にわたり続けられたFRBの金融正常化プロセスが終焉(しゅうえん)に近づいている。現状のイールドカーブの形状は、そういった事実を示唆する材料と考えたい。

唐鎌大輔(みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)
唐鎌大輔(みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

(唐鎌大輔、みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

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