資源・エネルギー学者が斬る・視点争点

電気代節約額の提示で省エネ促進=溝渕健一 学者が斬る

    エアコン・照明は省エネ製品がお得

     省エネ家電やエコカーの購入といった省エネルギー投資は、地球温暖化やエネルギー問題への対策として有効なだけでなく、購入者のエネルギーコスト(電気代など)を減らすこともできる。そのため、省エネ投資の促進は、国と国民の両方に利点がある政策だ。

     日本では、最も効率が高い製品を基準に省エネ性能の目標を定める「トップランナー制度」が導入され、省エネ製品の性能は年々向上している。しかし、買い替えの際、省エネ性能の高い製品が必ずしも購入されているわけではないのが現状だ。供給側が期待される省エネ水準と、購入者である消費者側が求める実際の省エネ水準に乖離(かいり)が生じる「エネルギー効率性ギャップ」ができている。

    違いが出る購入後コスト

     どうして消費者は、必ずしも省エネ性能の高い製品を選ばないのだろうか。家電の場合、省エネ性能の高い製品は、そうでない製品に比べると値段が高い傾向にある。性能が高くても、初期投資の費用が大きいために購入に至らない可能性がある。多くの人々は本体価格の大きさに目がいき、購入後にかかる電気代にはあまり注意を向けない。「エネルギー効率性ギャップ」の議論の中で、このような省エネ性能の情報に対する認識不足を指摘する研究者は多い。

     いくつかの製品について、使用期間中にかかる電気代の平均値、製品の購入価格を調べた(表)。家電製品によって、購入後にかかる電気代に大きな違いがあることが分かる。

     エアコンの場合、平均使用年数の13・5年(2018年調査)の間にかかる電気代は、製品の種類が多い8~12畳用で約33万円、11~17畳用で約51万円。これは、本体価格の2・2~6・5倍にも及ぶ。家の構造や窓の数、気候などによって増減はあるが、エアコンでは購入後のコストの方がはるかに大きいことを示している。

     一方、冷蔵庫では、使用期間中にかかる電気代は、本体価格の約半額~同額くらいだ。テレビに至っては、本体価格の2~4割程度しかかからない。

     照明に関しては、白熱電球よりもLEDや蛍光灯の方が省エネというイメージは持たれていると思うが、購入後のコストまで把握して購入する人は少ないだろう。

     省エネ情報の提供については、06年10月から複数の家電製品を対象に表示が義務付けられている「統一省エネルギーラベル」(省エネラベル)がある。エアコンの省エネラベルでは、目標年度を基準に省エネ効率を5段階で表現し、1年間にかかる電気代の目安も掲載されている。このラベルは他にもテレビ、冷蔵庫、冷凍庫、照明機器などにも表示されており、購入検討の際、店頭で見かけた方も多いだろう。

     しかし、使用年数なども考慮した費用は表示されていない。店頭で複数のモデルを比較する場合、使用期間中にかかる電気代を自身で計算するなどの手間がかかる。これでは、どうしても本体価格の方に目がいきがちになってしまう。それではもし、消費者が購入後のコストまでしっかりと考慮できていれば、省エネ性能が低い安価な製品より高性能製品を選ぶようになるだろうか。

    13万円の節約に

     エアコンを例にしてみよう。表の作成でも利用した資源エネルギー庁の「省エネ性能カタログ2017年冬版」に掲載されているエアコンのうち、最も省エネ効率の高いエアコンを平均使用年数の13・5年使うと、8~12畳用で27万2700円、11~17畳用で37万9350円だった。平均的なエアコンを使った場合よりもそれぞれ約5万4000円、約13万4000円も安い。これだけ安くなると、本体価格の差を十分に相殺できるケースがほとんどだ。

     エアコンと同じように、省エネ性能の高さで本体価格の差を補える製品として、照明機器がある。例えば、白熱電球(寿命半年)と蛍光灯(寿命3年)では、本体価格は白熱電球の方が600円安い。しかし、3年間の電気代は、白熱電球の方が蛍光灯より約6800円も高くなる。また、蛍光灯とLED(寿命20年)を比較する場合は、20年間使うことを想定すると、そもそも本体価格だけでもLEDの方が安価(LEDが1000円、蛍光灯が約4700円)であり、かつ20年間の電気代もLEDの方が安い(LEDが1万200円、蛍光灯が1万3000円)。

     伝統的な経済モデルでは、すべての人々は世の中の財やサービスの情報(価格や質など)を完全に把握し、正確な計算能力により、瞬時に損得を計算して合理的な行動を行っていると仮定される。これを「完全情報の仮定」と呼ぶ。経済学ではこのような一見、非現実的に思える仮定により、世の中を単純なモデルで表すことで、実際にモデルと一致しない現象が観測された際に、どの部分の仮定が問題かを明らかにして、対策を考えるのである。

     省エネ行動には、伝統的な経済モデルにおける「完全情報の仮定」が成り立っていない。省エネ情報が購入者に十分把握されず、それが省エネ投資行動をゆがめている可能性がある。

     この問題への対応としては消費者に、省エネ性能を具体的な数値で示すことが有効である。その際、省エネ率や二酸化炭素(CO2)削減量、電力消費削減量などよりも、電気代の節約金額を表示する方が、購入をより促進することが、省エネ製品購入の決定要因の研究で分かっている。そこで、省エネラベルに記載されている年間の電気代を、使用期間中にかかる電気代に変更し、本体価格の差と電気代の節約額を容易に比較できる一覧表やシステムを用意してはどうか。そうすれば、本体価格が多少高くても、より省エネ効率の高い製品の購入が誘発され、「エネルギー効率性ギャップ」の抑制が期待できるだろう。

     一方、冷蔵庫やテレビなどでは、本体価格の差の方が、使用期間中の電気代の節約額より大きくなりがちだ。そのような製品に対しては、09年から約2年間実施された家電エコポイント制度のような補助金の付加によって、製品価格差をできるだけ小さくするなど、製品ごとに異なった対策の検討も必要だろう。

    (溝渕健一・松山大学経済学部教授)


     ■人物略歴

    溝渕 健一(松山大学経済学部教授)
    溝渕 健一(松山大学経済学部教授)

    みぞぶち・けんいち

     1980年兵庫県生まれ。2003年同志社大学経済学部卒業、08年神戸大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。松山大学経済学部講師、准教授を経て17年から現職。専門は環境経済学、計量経済学。


     本欄は、佐藤一光(岩手大学准教授)、溝渕健一(松山大学教授)、渡辺誠(アムステルダム自由大学教授)、澤邉紀生(京都大学教授)、河越正明(日本大学教授)、平田英明(法政大学教授)の6氏が交代で執筆します。

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