何を今さらアップル・ショック=藻谷俊介
アップルの株価は昨年10月から既に大きく下落していたので低下は限定的だったが、米経済への過大評価がすぼみ、為替市場が大きくドル安へとシフトした。昨年11月に最初の業績予想が出た時点から数値は良くなかったのだが、今回の下方修正で売上高が前年同期比でマイナスに転じたことが騒動の引き金になったと思われる。
筆者にとっての問題は、同社のティム・クックCEO(最高経営責任者)が言う「中華圏の景気減速」がいつ起こったのかである。この投資家向けレターを額面どおりとらえ、普通に前年同期比でアップルの営業利益をグラフ化すると図1のようになる。まさに足元で中国(中華圏)景気が大幅に悪化を始めたように見えるわけである。
しかし、かねがね述べているように、実際のピークは前年同期比の伸び率が今回のように陰転した時よりも、平均で6カ月ほど前になる。それを確認するためにアップルの営業利益に季節調整をかけ、遅行のない業績の推移をグラフ化した。同時に、遅行しない平滑法を用いたトレンド線も計算した(図2)。
すると、主力携帯電話への依存度を高めているアップルの業績は、近年、新機種の発表直後に集中して利益が出るようになっており、最新主力機種であるXS発表の効果で昨年7~9月期が跳ね上がったため、トレンド線が示す本来の利益のピーク(図2黄線)に比べて判断が遅れてしまったらしいことが見えてきた。こうした波動を遅行する図1から抽出することは難しい。
中国の景気減速は1年前の話
いずれにしても現時点で得られる最良の知見として、アップルの業績のピークは昨年1~3月期ないし4~6月期であり、これは中国、日本を含むアジア圏の景気が減速を始めたポイントと一致している。
筆者の周囲でも中国は大丈夫か、という声が再び大きくなっている。しかし、中国が一昨年の金融引き締めによって景気減速に転じたのは昨年初頭。だからこそ昨年5月ごろから次々と景気刺激策を打ち出してきた。アップルの業績のぶれや、米連銀が強気をぎりぎりまで引き延ばしたことで、米国市場の判断の転換が遅れただけであり、アップル・ショックには特に目新しい情報は含まれていなかったことになる。
(藻谷俊介、スフィンクス・インベストメント・リサーチ代表取締役)