国際・政治東奔政走

沖縄県「無力化」を仕掛ける政権 統一地方選は知事選構図に異変=人羅格

    菅義偉官房長官との会談後、記者団の質問に答える沖縄県の玉城デニー知事(首相官邸で2018年12月13日)
    菅義偉官房長官との会談後、記者団の質問に答える沖縄県の玉城デニー知事(首相官邸で2018年12月13日)

     東京・国立劇場で2月24日に開かれる天皇陛下在位30年を祝う記念式典で、沖縄出身の歌手、三浦大知さん(31)が歌唱を披露することが話題を呼んでいる。三浦さんが歌う「歌声の響」は天皇陛下が沖縄訪問の思いを作詞され、皇后陛下が作曲された。

     天皇陛下が皇太子時代に初めて沖縄を訪れた際は、ひめゆりの塔で過激派が火炎瓶を投げつける事件が起きた。翌日、ご夫妻はハンセン病療養所を訪ね、入所者たちから祝い事で歌われる「だんじよかれよし」で見送られた。

     後日、療養所に「歌声の響」が贈られた。「だんじよかれよしの歌声の響 見送る笑顔 目にど残る」は音にすると「だんじゅかりゆしぬ うたぐいぬふぃびち みうくるわれがう みにどぅぬくる」となり、八八八六を定型とする琉歌である。

     若き日の天皇陛下は沖縄学の一人者、故・外間守善さんから琉歌の手ほどきを受けた。今回の三浦さんの人選は、両陛下が沖縄に深い思いを寄せ続けられたことを踏まえてのものだろう。

    式典と同日の県民投票

     だが、平成最後の年、国と沖縄の関係は残念ながら、ますます遠く、いびつになっている。

     くしくも30年式典と同じ2月24日、普天間飛行場の辺野古沖移設の是非を問う県民投票が行われる予定だ。政府の埋め立て工事着手に反発を強める玉城デニー知事は、県民投票で改めて「辺野古ノー」の民意を突きつけることを目指す。

     ところが沖縄、宜野湾、うるま、石垣、宮古島の5市長が投票の選択肢設定などを理由に不参加を表明したため、揺れ動いた。5市が離脱すると有権者3割が投票に参加できなくなり、県民投票は沖縄の結束どころか内部亀裂を露呈しかねない状況だった。結局24日、設問の選択肢に「どちらでもない」を加えた3択とすることで県議会与野党が合意し、5市は急遽、参加する見通しとなった。

     住所次第で県民が投票に参加できなくなる事態を不当な権利の侵害と捉えるか、市町村の裁量範囲とみるかは難しい問題である。

     ただし、今回の対応をめぐっては、沖縄を地盤とする自民党国会議員が県内の市町村議員に投票不参加を「指南」する文書を配布したことも判明している。

     政府は県民投票について、工事に与える影響を全面否定している。県内の自治体が参加しなければ、県民投票の「無力化」を図る国の思惑に結果的に沿うところだった。市町村の離反で投票の選択肢まで変えるのは、玉城知事にとっても誤算に違いない。

     ここにきて、浮かび上がるのは安倍政権が市町村を巻き込んで「玉城県政」を揺さぶる構図だ。政府は昨年末に決めた来年度予算案で、国が県を介さずに市町村に直接渡すことのできる新たな交付金30億円をいきなり計上した。

     沖縄振興に関する一括交付金はこれまで国から県に支出され、県がその3割を市町村に配ってきた。辺野古移設反対の「翁長県政」が誕生してから、交付額は減少している。しかも今回、県が要求していなかった市町村への直接交付金が唐突に新設されたのである。

    「一括交付金の補完が目的だ」という政府の説明には無理があり、玉城県政の影響力をそぐ狙いがあると取られても仕方ないだろう。

    「平成の30年」は国から地方への分権改革が進み、2000年に施行された地方分権一括法は国と地方の「対等・協力」関係をうたった。だがここ数年、辺野古問題をめぐる政権の取り組みはそんな精神からどんどん乖離(かいり)していくようだ。

     折しも今年は春に統一地方選が行われる。知事選は10道県で予定されるが、多くが波乱含みの異常事態となっている。

     北海道知事選は、高橋はるみ知事の参院選転出で16年ぶりの新人対決となる。自民の候補選びは37歳の鈴木直道・夕張市長が軸だが、他の首長や道議には夕張再建を進める鈴木氏の改革路線への警戒感も根強いようだ。

     福岡は再選を目指す小川洋知事(69)に対抗して麻生太郎副総理・財務相や自民県連側が元厚労官僚の武内和久氏(47)を擁立し、保守分裂となりそうだ。麻生氏との亀裂が決定的な小川氏は菅義偉官房長官にいち早く出馬の意思を伝え、後ろ盾にしようとした。麻生、菅両氏の代理戦争視する向きもある。

    福井・島根で旧自治省対決

     保守地盤の厚い福井、島根両県も異変が起きている。

     福井は5選を目指す西川一誠知事(74)に旧自治省(現総務省)出身の元副知事、杉本達治氏(56)が挑み、旧自治省のOB同士が対決する。

     島根県知事選は自民党島根県連の推す元消防庁次長、大庭誠司氏(59)と県政策企画局長を務めた丸山達也氏(48)の両総務省OBが出馬し、やはり旧自治官僚新人による保守分裂選挙となる。丸山氏は自民県議に支援する勢力があり、大庭氏は竹下亘前総務会長、細田博之元幹事長らが推すという激戦構図である。同じ省庁のOBが戦うこと自体珍しいのだから「旧自治官僚対決」が2県にわたるのはかなり異例だ。

     大阪も目が離せない。松井一郎大阪府知事と吉村洋文大阪市長は大阪都構想の是非を問う住民投票と7月参院選の「ダブル投票」実施に向け、公明党を揺さぶっている。

     公明がダブル投票に同調しなければ松井、吉村両氏が辞任して府知事選と市長選の「ダブル選挙」を統一選に重ねようというのだ。その際は、大阪維新の会が公明党との全面対決も辞さないという構えである。

     大阪の衆院小選挙区で公明と維新勢力は連携し、これが両党のかすがいとなってきた。維新は安倍官邸と近いだけに公明と全面対決すれば憲法改正問題など国政にも影響し得る。収拾に向けた力学が働くのではないか。

     野党第1党の立憲民主党は今回の統一選が発足を経てのいわば初陣であり、自民との対立構図を構築しきれているとはいいがたい。保守分裂の多発は自民1強に伴う「余力」がもたらした現象かもしれない。

     沖縄県民投票と統一地方選。「平成」の最後に訪れる二つの場面は国政と地方の関係を考えるうえでも重要な指標となるだろう。

    (人羅格・毎日新聞論説副委員長)


    おことわり

    1月24日、沖縄県議会の与野党が、県民投票の選択肢を3択にすることで合意し、不参加を表明していた5市が参加する見通しになったため「週刊エコノミスト2月5日号」掲載記事の一部を加筆・修正しています。

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