週刊エコノミスト Online挑戦者2019

古原忠直 日本酒応援団社長 理屈抜きに旨い日本酒を世界へ

    古原忠直 日本酒応援団社長(撮影=武市公孝)
    古原忠直 日本酒応援団社長(撮影=武市公孝)

     自前の醸造所を持たず蔵元に製造委託する「ファブレス」による日本酒造りを展開。蔵元と一緒に新しい銘柄を企画し、販売・輸出まで一貫して行う。

    (聞き手=大堀達也・編集部)

     いま手掛けている酒は、掛合(かけや)(島根)、能登(石川)、上尾(埼玉)、国東(くにさき)(大分)、長岡(新潟)、鴨方(かもがた)(岡山)の各地域にある6蔵と造る独自銘柄です。製法は、いずれも醸造アルコールを使わない「純米」、酒を透明にする炭素濾過(ろか)をしない「無濾過」、火入れ殺菌をしない「生酒」、アルコール度数調整の加水を行わない「原酒」です。加工を極力減らしているので大量生産は難しい酒ですが、米や水といった素材由来の風味を味わえます。

     日本酒の蔵元の多くは、長い歴史と高い技術を持ちながら生産量の落ち込みに悩んでおり、廃蔵の危機にある酒蔵も少なくありません。日本酒の消費量は1970年代をピークに減り続け、80年代に3000以上あった酒蔵が1500以下に半減しました。そんな中で既存の銘柄以外に“新機軸”を打ち出したい蔵元と組み、商品企画から製造を支援します。

     提携する蔵元とは杜氏(とうじ)や米農家も交え、どんな酒を造るべきか徹底的に話し合います。大事なのは地域のブランド価値を高めること。例えば、辛口の酒が多い能登ではブリが地域の食材として有名です。味がしっかりした魚なので、水のような淡麗辛口でなく、ブリに負けない「ジューシーな辛口」にしようといった具合です。造りの時期は、いずれも「大の日本酒好き」を自負する社員が、蔵元に長い時で2カ月以上泊まり込みます。田植えや稲刈りからも参加しています。

    「KUNISAKI(国東)」のロゴは地元で「災払鬼」として崇拝される赤鬼がモチーフ。銘柄名は分かりやすく生産地名に。日本酒には珍しく製造年も記載。
    「KUNISAKI(国東)」のロゴは地元で「災払鬼」として崇拝される赤鬼がモチーフ。銘柄名は分かりやすく生産地名に。日本酒には珍しく製造年も記載。

    旨さに衝撃

     社会人になりたてのころ、純米・無濾過・生・原酒の旨(うま)さに衝撃を受け、理屈抜きで日本酒にほれ込みました。仕事でベンチャーキャピタル(VC)に携わり、趣味で日本酒を飲み歩いていた2014年11月、島根県掛合町の蔵元で竹下登元首相の生家として知られる竹下本店が生産量減少に直面していることを知りました。

     日本酒好きとして何とかしたいと思い、蔵元に新たな酒造りを提案しました。フェイスブックで「日本酒応援団」を立ち上げるなど、ネットを介して酒造りへの参加を呼び掛けたところ、全国から日本酒好きが集まりました。泊まり込みで蔵元と一緒に初めて造った生原酒3000本は2カ月半で完売する好評でした。ボランティアながら、その後能登にある実力派の数馬酒造から「新しい試みをしたいので協力してほしい」との依頼があり、自信を持てたことが起業のきっかけになりました。

     10~17歳の米国暮らしと2年の留学経験を通して「日本の伝統文化が世界では知られていない」と感じていた私は、日本の良さを伝える仕事をしたかったのと、VCの経験から好きな仕事でないと成功しないと知っていたので、「起業なら今だ」と決心しました。

    ガラパゴスの潜在力

     現在、フランスのワイン輸出額が年間1兆円を超えているのに対し、日本酒は同180億円程度にすぎません。しかし、ガラパゴス市場ながら日本酒は世界の人々の生活に定着する潜在力を秘めていると思います。「日本酒のあるライフスタイルを世界へ」というビジョンの下、日本酒を世界で「当たり前の存在」にしたいです。まずは当社の日本酒販売額に占める海外輸出の比率を足元の10%から50%にすることが目標です。


    企業概要

    事業内容:日本酒の製造支援・マーケティング・ブランディング・販売

    本社所在地:東京都品川区

    設立:2015年7月

    資本金:1億円(資本準備金含む)

    従業員数:7人


     ■人物略歴

    こはら・ただなお

     1977年東京都出身。2000年東京大学卒業後、三菱商事入社。03年東京海上キャピタル入社。06年米スタンフォード大学経営大学院(MBA)に入学、08年卒業。商社とベンチャーキャピタル時代に11年間、日本、米国、中国で投資・事業開発を行う。2015年7月、日本酒応援団を設立し社長に就任。

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