債務削減が中小企業直撃 28年ぶり低成長の引き金=真家陽一
中国経済は2018年以降、急速に減速している。3月5日から始まった第13期全国人民代表大会(全人代、国会に相当)第2回会議も危機感を隠さない内容で、今年の国内総生産(GDP)成長率目標を6~6.5%に設定し、6.5%前後とした前年から事実上引き下げた。
減速の直接的な原因は、習近平政権が取り組む構造改革にある。習政権は18年以降、リーマン・ショック後の大規模景気対策から尾を引く過剰債務問題に対して、景気減速をある程度許容しつつ、中長期的にも持続可能な成長を見据えた構造改革を断行しようとしてきた。これを受けた金融引き締め策が想定以上に効き過ぎたことで、18年の成長率は前年から0.2ポイント縮小の6.6%に低下し、28年間で最も低い水準となった。
確かに、中国の企業と家計を合わせた民間部門の債務は増加の一途をたどってきた(図1)。17年3月末には対GDP比でほぼ200%の水準に達している。過剰債務問題への対策が実質的に先送りされてきた結果、理財商品(中国で販売される高利回りの資産運用商品)などシャドーバンキング(影の銀行)の残高の急増を招いた(図2)。
習政権の構造改革により、デレバレッジ(債務削減)を目的とした規制強化の対象となったシャドーバンキングの残高は、18年以降急減している。一方、シャドーバンキングに依存していた中小民営企業の資金繰りは急速に悪化した。銀行の人民元建て貸し出し自体は増えているものの、中小民営企業の多くは信用力が低いために銀行融資を受けることが難しく、金詰まりの状態となった。
ある総合商社の北京駐在員は「中国企業から支払い条件の緩和に関する相談が急に増えた」と話す。中小企業の資金繰り悪化が経済全体におよぼす影響は小さくない。中国は国有企業の存在感の大きさが注目されがちだが、中国人民銀行(中央銀行)の「中国金融政策執行報告」(18年11月)によれば、民営企業は現在、税収の50%以上、GDPの60%以上、技術イノベーションの70%以上、都市部の雇用の80%以上、企業数の90%以上に寄与している。
輸出は統計以上に深刻
こうした中小企業の資金繰り悪化による景気減速に、米国との貿易摩擦が追い打ちをかけた。相互に制裁関税を発表し合うことで景気の先行き不透明感が高まった。不安は株式市場にも飛び火し、上海総合株価指数は18年年間で約26%低下した。これにより株式を担保に資金調達していた民営企業は銀行から返済を迫られ、資金繰りが一層悪化する負のスパイラルに陥った。
18年の中国の対米輸出は前年比11.3%増の2ケタ増だったが、追加関税発動を見越した駆け込み需要があったことを考えると、実態はより厳しい。日系企業の北京駐在員は「11月までに駆け込みで輸出して、その後は開店休業状態の中国企業が多数ある」と話す。事実、18年12月の対米輸出は前年同月比3.5%減とマイナスに転じた。また、米中貿易摩擦で最も影響を受ける恐れがあるのも民営企業だ。中国人民銀行によると、中国の輸出に占めるウエートは、民営企業と外資系企業がそれぞれ45%と高く、他方で国有企業は10%に過ぎないという。
こうした要因に加えて、心理面の影響から設備投資を控える動きがあるとの見方もある。米国との貿易摩擦の悪化や景気の急減速により、1990年代から続く高成長に慣れた中国の人々は、先行きへの不安感を強めている。これが、過剰ともいえるほどに消費や設備投資の意欲を冷え込ませ、統計上の数字を悪化させている面もある。
米中両政府は3月中に首脳会談を開き、貿易摩擦問題の決着を目指す見通しとなった。ただ、貿易摩擦問題への懸念はある程度、和らいだとしても、あくまで中国の景気減速の一要因に過ぎない。世界第2位となった経済大国の行方が、今後も世界全体を大きく揺るがし続ける。
(真家陽一・名古屋外国語大学教授)