「令」をめぐるこじつけ=小林よしのり
新元号「令和」の発案者らしき中西進氏が、「令」の文字について「命令の令との指摘は、こじつけだ」と言い張り、「麗しい」という意味だとか、「令嬢の令だ」と主張している。
その剣幕(けんまく)がもう「私が発案者だ」と言っているに等しいのだが、それに感化された右派論客は、「令和の令は命令の令だ」と言った者すべてを「令和をおとしめる人々」として攻撃しており、わしもそのうちの一人に挙げられる始末となっている。
だが、中西氏は万葉集の権威かもしれないが、漢字の専門家ではない。漢字研究の権威、白川静氏による字源辞典『字統』には、「令」とは「みことのり・いいつける・よい・せしめる」とある。これは、ひざまずいて神の命令を聞く人の形を表した象形文字で、上部は三角形に似た深い冠の形である。そして、神の命令であるから善い、麗しいという意味が派生したという。
中には反元号や反安倍政権の主張に利用するために「命令の令だ」と言う人もいるが、それでも「令」の文字に「命令」の意味があること自体は事実である。ましてや、わしは元号を肯定し「令和」も受容すると表明した上で、「令」の字源を言ったにすぎない。
ところが右派は真実でも言うな、元号をおとしめるつもりか、不敬であるぞと攻撃して、「命令の令」とは言えない空気を作ろうとしているのだ。これはまさに、戦前・戦中に言論が萎縮していったのと同じ構図である。
わしは言論の自由と学術的真実を守るために、「令和の令は命令の令」だと言い続ける。元号を悪用する形で真実がゆがめられ、戦前・戦中のような世の中に戻ってしまったら、それこそ新天皇陛下に申し訳ないではないか。
(小林よしのり・漫画家)