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「コンプライアンス」が芸人を小粒にする=小林よしのり(漫画家)

(Bloomberg)
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 吉本興業の芸人が反社会勢力からギャラをもらった事件が、企業のコンプライアンスや契約書やギャラの問題に転化して、経営陣が責められている模様に違和感を覚える。そもそもお笑い芸人をサラリーマンとして雇う企業があり得るなら、漫画家をサラリーマンとして雇う企業もあり得るということになろうが、そんなものはない。

 個人の才能で成功しようと漫画家は戦うのに、6000人の吉本芸人は安定した暮らしを望んでいるのだろうか。ギャラ1円でも吉本ブランドで人前に出たがっている底辺の者たちは、吉本興業が普通の企業になればリストラされるのが確実で、そんな芸人が経営陣を批判しているのは甘えでしかない。

 漫画家だって、出版社と契約書を交わして連載を始めるわけではなく、人気がなければ突然打ち切られて無職になる。人気がなければ編集者にパワハラされるが、人気があればペコペコされる。おちぶれる自由もあるが、野心を持つ自由もあるのが芸で食う人間の掟(おきて)である。

 少年ジャンプで「東大一直線」の連載が決まったら、専属契約したために他社には描けなくなったが、数年後、他社にも描きたくてフリーになった。以降、なかなかヒットが出ず、貯金が底をついたあたりでようやく「おぼっちゃまくん」が大ヒット、さらに「ゴーマニズム宣言」が続いた。漫画家も芸人も同じだと思っていた。

 芸人が苦闘の日々に反社会勢力からギャラをもらっても片目をつぶって許すのが世間のマナーだったとわしは思うが、今や興行師が権力に媚(こ)び、行政機関と提携して税金が投入される時代だから、コンプライアンスなどと言いながら、芸人の小市民化を進めるしかないようだ。横山やすしのような破天荒な芸人は出なくなるだろう。

(小林よしのり・漫画家)


 本欄は、池谷裕二(脳研究者)、片山杜秀(評論家)、小林よしのり(漫画家)、古賀茂明(元経済産業省官僚)の4氏が交代で執筆します。

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