舞台 2019年7月歌舞伎鑑賞教室 菅原伝授手習鑑=小玉祥子
敵味方で対峙する運命の三つ子
絢爛豪華な衣装にも注目
初心者にもわかりやすい解説付きで歌舞伎の代表的な演目が楽しめると好評な国立劇場の歌舞伎鑑賞教室で、7月に「車引」と「棒しばり」が尾上松緑、中村松江、坂東亀蔵、坂東新悟らにより上演される。
「車引」は、古典の名作である「菅原伝授手習鑑」の一幕。歌舞伎の様式美を堪能できる作品で、菅原道真が藤原時平との政争に敗れて失脚した事件を背景にしている。
道真に恩義のある家に生まれた三つ子の兄弟の松王丸、梅王丸、桜丸。梅王丸は道真の家臣となり、桜丸は帝の弟、斎世親王に仕えていた。2人は道真の敵である時平が京都の吉田神社に参詣にくることを知り、待ち伏せて時平の牛車(ぎっしゃ)に襲いかかる。2人の前に立ちふさがったのは、時平に仕える松王丸であった。三つ子の兄弟は敵味方に別れて対峙(たいじ)する。
まず目を引くのはその衣装。梅王丸と桜丸は白地に童子格子と呼ばれる紫の格子模様という同じ姿だが、肌を脱ぐと梅王丸の赤い襦袢(じゅばん)には金糸で梅の縫い取り、桜丸は同じく金糸で桜の縫い取りがしてある。梅王丸は花道を入る時に飛び六方と言って、左右の足を三回ずつ飛ぶように踏んで駆けていく。帯は楽屋で3人がかりで締めるほど太い。一方の桜丸は女形から出ることも多い優しい風情の役だ。
また、後から登場する松王丸も白地に童子格子の姿は一緒だが、肌を脱ぐと白地に青く松が縫い取ってある。こちらも梅王丸同様の強さがある役だが、そこに2人に敵対する悪の要素が加味されている。
時平は公卿悪(くげあく)と呼ばれる天下を狙う悪人。梅王丸と桜丸が壊した牛車の中から乗り出すように現れる。その顔には青い不気味な隈(くま)取りが施されている。
松王丸が松緑、梅王丸が亀蔵、桜丸が新悟、時平が松江で全員が初役だ。
「棒しばり」は狂言の「棒縛」を翻案した舞踊劇。岡村柿紅作で1916年に初演された。主人の曽根松兵衛は留守の間に使用人が酒を盗み飲むのではと案じ、次郎冠者の両手を棒にくくりつけ、太郎冠者を後ろ手に縛る。だが2人は協力し合ってまんまと酒を飲むことに成功し、上機嫌で歌い騒ぐ。そこへ松兵衛が帰ってくる。
手を縛られるという制約の中での踊りが見もの。次郎冠者を松緑、太郎冠者を亀蔵、松兵衛を松江が踊る。
松緑は「『車引』は華やかな演目です。ストーリーよりも衣装や隈取りを楽しんでいただきたい。『棒しばり』もわかりやすいので、リラックスして見てもらいたい」と話している。
最初の「歌舞伎のみかた」は新悟が担当する。
(小玉祥子・毎日新聞学芸部)
会期 7月3日(水)~24日(水) 午前11時、午後2時30分開演
会場 国立劇場(東京都千代田区隼町4-1)
問い合わせ 国立劇場チケットセンター(午前10時~午後6時)
TEL 0570-07-9900