週刊エコノミスト Online不動産コンサル長嶋修の一棟両断

住民格差広げる消費増税 /5

「家を建てるなら消費税8%のうちに!」との横断幕が掲げられた住宅展示場(さいたま市)
「家を建てるなら消費税8%のうちに!」との横断幕が掲げられた住宅展示場(さいたま市)

 政府は2019年10月に消費税を8%から10%へ引き上げる予定だ。増税が決まった場合、与党は大規模な増税前の駆け込みと増税後の落ち込みを避けるため、自動車や住宅などについて政策的な配慮を行うようで「住宅ローン控除の3年延長」「すまい給付金」といった措置が講じられる予定だ。

 住宅ローンの借入額や購入者の収入などにもよるが、こうした負担軽減措置が増税額分を上回り、結果的には増税後に買った方が得というケースも多い。現に駆け込みの気配は見られず、住宅市場発の景気変動はそれほどなさそうに思えるが、その一方で気になる調査結果がある。

 京都大学の心理実験によると、8%から10%への消費増税はこれまでの増税の1・4倍の消費縮減効果が、とりわけ女性には2・9倍もの消費縮減効果があるとの結果が出た。

 この実験は男女100人ずつ合計200人を対象とし、商品購入をするさまざまな状況下で五つの仮想増税状況を提示。それぞれの場面で「商品を買い控えするかどうか」を測定することで、増税がどれだけのインパクトを持つか測定した。消費がこれほどまでに落ちる理由にはいろいろありそうだが、簡潔に言えば「10%は税額を計算しやすいから」ということらしい。確かに「1万円の買い物なら消費税は1000円」と、誰でもかんたんに計算できるため、消費税の重みを実感してしまう。

管理費も修繕積立金も

 住宅市場には緩和策があるため、増税による大きな影響は受けないとしても、他の消費財や日用生活品に大きなマイナスのインパクトをもたらし、景気が悪化すれば不動産市場にも大きな下落をもたらす可能性がある。

 同時に増税によってマンション管理費も実質値上げされ、大規模修繕のコストも上昇する。長期修繕計画は必然的に見直しが必要となり、修繕積立金のさらなる積み増しがどのマンションも必至となるはず。ただでさえ多くのマンションで修繕積立金が不足しがちであるところに、増税によるコストアップが襲ってくるのは、団塊世代が70歳代を迎えた今の高齢化社会では非常に厳しい。結果として修繕や管理が行き届かない廃虚マンションの出現を早めることにつながる。

 そうなると、売却するにもなかなか売れない住戸が増え、さらにシニア層向けの融資制度「リバースモーゲージ」の借入可能額も低下する。リバースモーゲージとは、マンションなどの持ち家を担保にして、そこに住み続けながら金融機関から融資を受ける融資制度である。「自身の財産を一生で使い切る」という高齢者には最適な商品だが、管理が行き届かず評価額が下がれば融資額も下がってしまう。マンションの管理状態次第で住人の格差が広がりそうだ。


 ■人物略歴

ながしま・おさむ

 1967年生まれ。広告代理店、不動産会社を経て、99年個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」設立

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月16日・23日合併号

今こそ知りたい! 世界経済入門第1部 マクロ、国際政治編14 長短金利逆転でも景気堅調 「ジンクス」破る米国経済■桐山友一17 米大統領選 「二つの米国」の分断深く バイデン、トランプ氏拮抗■前嶋和弘18 貿易・投資 世界の分断とブロック化で「スローバリゼーション」進行■伊藤博敏20 金融政策 物価 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事