映画 ガーンジー島の読書会の秘密 ナチスの目欺いた島民の知恵 戦下の秘話に見る「本の力」=野島孝一
タイトルを見ただけでは、どんな映画なのか想像がつかなかった。そもそもガーンジー島とはどこなのか? インドのガンジーに関係がある島かと考えてしまった。ガーンジー島とはイギリス海峡に浮かぶチャネル諸島の一角で、第二次世界大戦中はナチスドイツに占領されていた。イギリス領の島がドイツに占領されていたとは知らなかった。
メアリー・アン・シェイファーとアニー・バロウズの原作をマイク・ニューウェル監督で映画化。この監督は「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」や「フォー・ウェディング」で有名だ。
第二次世界大戦が終わったばかりの1946年のロンドン。女性作家のジュリエット・アシュトン(リリー・ジェームズ)は、ガーンジー島の住民ドーシー(ミキール・ハースマン)から1通の手紙をもらう。それによると、島はナチスの占領から解放されたが、本屋は再開しなかった。本を買いたいのでロンドンの書店の場所を教えてほしいというものだった。
さらに手紙には「僕が所属する“読書とポテト・ピール・パイの会”は、ドイツ軍から豚肉を隠すために誕生しました」とあった。「えっ? ポテト・ピール・パイって? 豚肉を隠す?」
好奇心を刺激されたジュリエットは頼まれた本をドーシーに送り、さらなる情報を待った。そして、忙しい日程を割いてガーンジー島を訪れる。
第二次大戦中のガーンジー島は過酷な運命をたどった。ドイツ軍はフランスに近いこの島に守備隊を置いた。ナチスにより通信が切断され、島民は孤立。家畜は召し上げられ、夜間は外出禁止。島を食糧不足が襲った。しかしナチスは文化活動には比較的寛大で、島民たちは読書会の看板を掲げ、こっそり肉料理や手製の酒を持ち寄った。ポテト・ピール・パイとはジャガイモの皮で作ったパイで、食えたしろものではなかっただろう。
その秘話が、達者な俳優たちが演じる島民たちによって、次第に明かされていく。だが、島民たちはジュリエットに何かを隠していた。それはどうやらドーシー自身にも深くかかわってくる問題らしかった。
この映画は、戦争中の秘話に触れているが、決して暗い陰惨な感じはしない。ドイツ軍の目を欺きながら集会する住民の知恵。サスペンス感もただよう。 作家役のリリー・ジェームズはディズニーの実写版「シンデレラ」で主役を演じた女優。今作は若く美しい作家の甘美なラブロマンスをからませながら、島の情緒を伝える素朴な作品で、読書の魅力、本の力を実感させる含蓄が、ずっしりと心に残る。
(野島孝一・映画ジャーナリスト)
監督 マイク・ニューウェル
出演 リリー・ジェームズ、ミキール・ハースマン、グレン・パウエル
2018年 フランス・イギリス
8月30日~TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー