反中感情、ウイルスと共に増幅 大国化への懸念=坂東賢治
中国湖北省武漢で発生した新型コロナウイルスの感染拡大を受け、欧米では中国系やアジア系住民への差別や暴力などが問題化している。英BBC放送のニュースサイトの記事(2月3日)は、春節の飾り付けをしたロンドンの中華街で英国初の患者発生が伝えられた直後から中華レストランの予約のキャンセルが相次ぎ、中国系住民が嫌がらせを受けたと報じた。
武漢での多数の患者発生を受けて各国が中国人の入国規制を強める中、未知のウイルスへの恐怖感が高まったわけだ。しかし、特定の人種が対象になれば、それは偏見や差別につながる。米誌『タイム』(2月3日)は、2009年の新型インフルエンザ流行の際にはメキシコや中南米系の住民が、14年にエボラ出血熱が広まると、アフリカ系住民がそれぞれ偏見の対象になったと指摘。「感染症の流行時には差別や偏見が繰り返されてきたのが歴史だ」とする識者の見解を伝えた。
現代的な特徴もある。タイム誌は、カリフォルニア大学バークレー校の保健管理部門がインスタグラムへの投稿で「アジア系の外国人に対する恐怖症は一般的な反応だ」と学生にアドバイスして批判を浴び、投稿を削除したことを伝えている。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の発達で誤った情報も短時間に多くの人の間で共有されるようになった。専門家は「SNSはすでに偏見を持つ人々の間に誤った信念を増幅させる現象を引き起こしている」と指摘する。
「コロナウイルスと共に反中感情が広がる」と題した米『ニューヨーク・タイムズ』紙(電子版)の記事(1月30日)は「中国との政治、経済での緊張と懸念の高まりがウイルスに対する恐れと合わさって、反中感情を高めている面がある」という研究者の見解を紹介した。中国の大国化も影響しているというわけだ。
一方で米国には感染症が中国人らアジア系住民への差別につながってきた歴史がある。米『ワシントン・ポスト』紙は「コロナウイルスが中国人に対する差別的言辞を呼び起こした」と題した記事(2月5日)で「中国人差別はアジア人は病気を隠し持っているという確信と結びついていた」と指摘する。
アジア系差別復活の兆し
国際的に活躍する中国の女性作家、張麗佳氏は香港紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』(2月16日)で「コロナウイルスはイエロー・ペリル(黄禍)やアジアの病人といった古い偏見が復活する引き金を引いた」と警鐘を鳴らし、特に米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』が識者の寄稿の見出しで中国や中国人に対する蔑称だった「アジアの病人」という言葉を使ったことを問題視した。
フランスのアジア系住民がSNS上に「私はウイルスではない」というハッシュタグを付けた文章を流して抗議し、これが各国に広がるなど差別を食い止めようとする動きも出ている。東南アジア諸国連合(ASEAN)のクン事務次長はインドネシア『ジャカルタ・ポスト』紙への寄稿(2月22日)でこうした運動に賛同し、「ウイルスに人種はない。偏見はやめよう」と呼びかけた。
発生源の中国や患者に対する偏見は日本にも存在する。立ち向かうべき相手はウイルスという冷静さを保ちたい。
(坂東賢治・毎日新聞専門編集委員)