テクノロジーがんが治る 見つかる

中性子とホウ素でがん破壊 参入続々=下桐実雅子/加藤結花

    (出所)南東北BNCT研究センターの資料を基に編集部作成
    (出所)南東北BNCT研究センターの資料を基に編集部作成

     新しい仕組みの放射線治療が登場する。厚生労働省の専門部会で2月26日、「ステボロニン」という薬の製造販売が了承された。これは「ホウ素中性子捕捉療法」(BNCT)と呼ばれるがんの治療に使われる。3月中に、製造販売が正式に承認される見通しだ。

     BNCTは、加速器という大型装置を使い、中性子線でがん細胞を破壊する。まず、ホウ素の薬ステボロニンを患者に点滴で投与する。ステボロニンはがん細胞に取り込まれるようにできており、中性子のビームを患者に照射すると、がん細胞の中で中性子とホウ素が核反応を起こし、そのエネルギーでがん細胞を破壊する(図)。周辺の正常細胞はほとんど傷つけずに済む。1回の治療で終わるのも患者にとって利点だ。(がんが治る 見つかる) 

    7割の患者に効果

     今回、了承されたのは、顔や首などにできる頭頸部(とうけいぶ)がんでの治療だ。頭頸部がんは治療の難しいがんの一つだが、治療の有効性や安全性を調べる臨床試験(治験)で、手術ができなかったり抗がん剤が効かずに再発・進行した患者ら21人に実施したところ、71・4%の患者に効果があった。中にはがんが消えた人もいた。

    BNCTの治療の様子。奥が広瀬診療所長(南東北BNCT研究センター提供)
    BNCTの治療の様子。奥が広瀬診療所長(南東北BNCT研究センター提供)

     治験を担当した南東北BNCT研究センター(福島県郡山市)の広瀬勝己診療所長は「通常の放射線治療を受けた患者では、根治を目指して再治療をすれば、ひどい粘膜炎ができたり、皮膚に穴が開いてしまうこともある。BNCTでは、副作用へのサポートは必要だが、こうした患者にも安全に使うことができた」と話す。BNCTは体表に近いがんを得意とするが、多方向から照射する技術開発が進めば、さまざまながんで応用可能だ。同センターは遠方の患者にも対応できるよう宿泊施設も備えており、準備が整えば治療を開始したい意向だ。

    (注)主に国内企業の取り組み。固形がんは血液がん以外の臓器などで塊をつくるがん (出所)各社発表資料などを基に編集部作成 写真はBloomberg
    (注)主に国内企業の取り組み。固形がんは血液がん以外の臓器などで塊をつくるがん (出所)各社発表資料などを基に編集部作成 写真はBloomberg

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     BNCTの加速器は住友重機械工業が、ホウ素の薬はステラファーマが開発した。実は中性子によるがん治療は1930年代から提唱されており、京都大学を中心に原子炉を使った治療が試みられていた。病院向けの専用加速器が開発され、実用化に弾みが付いた。日本が世界をリードする分野だ。

     住友重機械工業の担当者は「治療できる施設が限られており、加速器の低価格化や小型化を進めて、普及させていきたい」と話す。当面は自費での診療や、先進医療(自費診療と保険診療の併用)で進めて、保険適用に広げたい考えだ。先進医療の場合、300万円程度の費用がかかると見られる。国内には、南東北BNCT研究センターのほか、京都大学、大阪医科大学にもある。

     新規参入も相次ぐ。リゾートトラストの子会社CICSは加速器装置を開発し、国立がん研究センター中央病院が19年11月、皮膚がん患者を対象に臨床試験を開始した。また、半導体メーカー、ロームが出資する福島SiC応用技研が、体の深部まで十分な量の中性子が届く装置の開発を進めている。

     厚労省の専門部会では、第一三共の乳がん治療薬「エンハーツ」も了承された(関連記事)。エンハーツを巡っては19年3月、第一三共が英製薬大手アストラゼネカと世界に向けた開発・販売提携を結んだと発表。第一三共が受け取る金額は最大で約7500億円で、注目を集めた。株価は上昇し、時価総額で業界3位になった(関連記事)

     エンハーツは抗体薬物複合体(ADC)と呼ばれる最先端の治療薬。日本人に多いがんトップ3の大腸、胃、肺でも臨床試験が進んでおり、使用が拡大しそうだ。

     患者のがん組織を採取し原因遺伝子を調べて、最適な薬を探す「がんゲノム医療」(関連記事)にも進展が見られる。

     ゲノム医療に使われる遺伝子検査は19年6月から保険適用になったが、対象は、ガイドラインで決められているさまざまな治療を尽くし、他に治療法がなくなった患者に限られる。そのため、すでに病状が進行した状態の人が多く、遺伝子検査の結果を待っている間に手遅れになってしまう課題があった。

     早期に遺伝子検査を受けて、初回の治療から自分のがんのタイプに合った薬を使えれば、より高い治療効果が得られるかもしれない。国立がん研究センター中央病院は先進医療として、肺、胃、大腸、乳房、膵臓(すいぞう)、胆道の進行したがんの患者を対象に、最初の治療を始める際に、遺伝子検査を実施する計画だ。一度に多数の遺伝子を調べるがんの遺伝子検査は自費(56万円)になるが、それ以外の検査や診察は通常の保険適用となる。より早い段階から患者一人一人に合った治療を受けられる可能性がある。良好な結果が得られれば保険適用が広がりそうだ。

    遺伝子検査を血液で

    がんの治療は日々進歩している(Bloomberg)
    がんの治療は日々進歩している(Bloomberg)

     がんの遺伝子検査では、採血でより簡単に調べられる検査法も出てきた。シスメックスが開発した大腸がんの遺伝子検査で、19年8月、製造販売の承認を得た。遺伝子検査では、患者のがん組織を採取して調べるのが一般的だが、患者の負担が大きく、がん組織が取れない場合もある。このため、血液中に微量に浮遊するがん細胞由来の遺伝子を調べる。各社が開発を進めており、中外製薬は今年、複数のがん関連遺伝子を調べられる血液検査の製造販売を、国に申請する方針だ。

     これまでにない新しい薬や治療法、検査法が登場し、がん医療はめまぐるしく進歩している。

    (下桐実雅子・編集部)

    (加藤結花・編集部)

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