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日本 学校一斉閉鎖は時期尚早=村中璃子

休校中の小学校の理科室で自習する児童たち
休校中の小学校の理科室で自習する児童たち

 世界保健機関(WHO)の専門家チームは中国での調査を終え、2月28日に新型コロナウイルスに関する40ページのリポートを発表した。致死率は3・8%(2月初め時点で2・3%)。しかし、地域的パンデミック(大流行)状態にあった武漢では5・8%なのに対し、武漢以外では0・7%と桁違いに低いこと、流行の初期では17・3%だった致死率は現在0・7%にまで落ちていること、これまで「氷山の一角」と言われてきた、症状のない患者が社会に広がっている可能性について否定的なデータなどが出された。(新型コロナ 広がる恐怖)

 WHOが2度見送るとした「緊急事態宣言」を出したのは春節の休みの終わった1月30日。その直前の1月28日、WHOのテドロス事務局長と北京で懇談した習近平国家主席は、WHOの専門家チームの受け入れに合意していたが、報告書はそれから1カ月もの後に発表されたことになる。WHOの報告書が遅れた複雑な事情については割愛するが、報告書があと2週間でも早く世界と共有されていれば、新型コロナをめぐる世界の状況は、少し違っていたかもしれない。

 中国が情報を独占していたこの間、新型コロナは、中国からアジアへ、アジアから世界へと広がり続けた。報告書が出た2月28日、WHOが世界のリスクレベルを「非常に危険」に上げ、実質上のパンデミック(世界的大流行)状態にあることを発表すると、世界各国で株価は大幅に下落。その後も連日の株価下落が報じられるなか、日本では3月2日から学校の一斉休校が始まった。

 パンデミック対策の原則は、学校や企業活動などの社会機能をできるだけ維持しながら、流行段階に応じてやることを変化させることだ。先手を打って社会機能を制限することではない。

インフルとは違う

 感染症の流行は、(1)散発的な感染者が見られる、(2)単発の感染者クラスター(一群)が見られる、(3)クラスターが複数見られる、(4)社会全体に市中感染が蔓延(まんえん)しているの4段階があり、日本はいま(3)に入ったところだ。そこで2月25日、政府は「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を発表し、クラスターがクラスターを生む連鎖を断つために、集会や不要不急の外出などを差し控え、重症患者の治療と救命に医療資源を集中させることを呼びかけた。

 その矢先の安倍首相自らの一斉休校要請だった。繰り返すが、現在の日本の流行は、まだ(3)に入ったところだ。子どもの感染者は数人見つかってはいるが、みな風邪程度の症状しかない。学校を中心としたクラスターが生じているわけでもない。対応は、感染した子どものいる学校の閉鎖と消毒で十分だ。WHOの報告書からも、新型コロナはインフルエンザとは異なり、学校での集団感染を引き起こすようなウイルスではないことも分かっている。そもそも、教室の窓が開く学校は、イベントやコンサートなど閉鎖空間で行われる「集会」とは感染症学的に見ても環境が異なる。

 社会活動を維持するための集会の中止なのに、社会活動の基盤をなす学校に対して今の段階で制限をかけ、親の仕事や医療現場にひずみを寄せることは本末転倒だ。

 もちろん、一部地域で雨が降っているだけでも、全国一律に傘をさしていけない理由はない。未知のウイルスだから、子どもでも広がるかもしれないという懸念も分かる。しかし、これから雨は本降りに、そして嵐になる可能性もある。長丁場にもなるかもしれない。

 クルーズ船の検疫体制が国際的な批判の対象になった日本が、国内外に大胆な政策をアピールしたい気持ちも分かるが、パンデミック対策とは毎日更新されていく情報をもとに、「命と生活の両方」を合理的に守っていくことである。ここは専門家の声に耳を傾け、経済活動など社会全体への影響も十分に考慮しながらこの危機を乗り越えたい。

(村中璃子・医師、ジャーナリスト)

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