マーケット・金融コロナ恐慌

迫る世界経済後退の足音 膨張した米企業債務の爆弾=長谷川克之

    (出所)ブルームバーグよりみずほ総合研究所作成
    (出所)ブルームバーグよりみずほ総合研究所作成

     <第2部 セクター分析>

     コロナ・ショックが世界の金融市場を震撼(しんかん)させている。投資家はリスク資産を圧縮し、安全資産や現金資産に緊急避難、ポートフォリオ(資産の中身)の防衛を迫られている。感染拡大を受け、世界経済をけん引してきた米国経済の失速が避けられないだろう。最大の懸念は、米国経済の弱点である企業債務問題の顕在化である。(コロナ恐慌)

    中国がマイナス成長に

     2月下旬以降、株式市場では世界同時株安が進行、3月13日までの1カ月間で上場企業の株式時価総額が世界全体で約20・8兆ドル(約2180兆円)も吹き飛んだ。債券市場では、米10年国債利回りが連日のように過去最低水準を更新、一時3カ月物を下回り長短金利差が逆転した。米国で景気後退を示唆する逆イールドとなったのは昨年10月以来である。

     新型コロナウイルスは、中国での感染がピークアウトする一方で、感染拡大の波は全世界の6大陸に広がった。パンデミック(大流行)による世界経済の失速は避けられない。ポイントは中国経済失速、欧米での個人消費減速、そして金融環境の変調の3点である。

     危機の震源地である中国経済については、2020年1~3月期の成長率は実態としては前代未聞の大幅なマイナス成長になることは避けられないだろう。世界第二の経済大国である中国での実質的な経済活動の停止の影響は大きい。当社試算によれば、今年の経済成長率は世界全体で約0・5%、中国で約2・1%下押しされる。中国経済への依存度が相対的に高いアジア諸国では軒並み1%以上の押し下げとなる。その前提として、世界の「市場」である中国での消費活動が6月末までに、世界の「工場」である中国の生産活動が3月末に、正常化するとした。当然、正常化の時期が後にずれれば、影響は更に大きくなる。

     感染拡大が中国、アジアに限られていれば世界経済は緩やかな回復基調を維持できていたかもしれない。しかし世界的大流行により、先進各国でも娯楽、外食、宿泊、旅行などのサービス支出が大幅に減速することが予想される。この個人消費の落ち込みが2点目のポイントである。

    低格付け企業の破綻も

     一昨年来の米中貿易戦争で製造業が世界的な不振に直面する中、世界経済をけん引してきたのは米国経済、とりわけ、米国の個人消費拡大だ。製造業の不振と底堅いサービス業。この「デカップリング」構図がコロナ・ショックにより崩れてしまう。個人消費が打撃を被れば米国経済は失速を余儀なくされる。その成長率は1~3月期、4~6月期に何とかプラスを維持できたとしても大幅に下振れ、いわゆる「グロース・リセッション」に突入する可能性が高い。

     第3のポイントが金融環境の悪化に伴う影響である。新型コロナの感染は不確実性が極めて高いものの、いずれ終息すると考えるのが自然だろう。自然災害と異なり生産設備が毀損(きそん)されているわけではなく、終息しさえすれば在庫復元の動きも手伝って、経済活動が急回復することは十分あり得る。20年前半は失速するも、後半から21年にかけては持ち直すと考えられるのもそうした理由による。だがコロナ・ショックの影響が長期化、深刻化する中で、世界経済、そして米国経済の弱点である米国の企業債務問題が顕在化するリスクがあることに注意が必要だ。

     金融市場でのリスク許容力低下と安全資産選好の高まりで、ドル高、原油安、低格付け社債売りが進行、金融環境がタイト化している。ドルは金利先安観の高まりを受け対円では下落したが、通貨の実力を示す実効為替レートで見れば引き続き歴史的高水準にある(図1)。新興国からの資本逃避の動きもドル高につながっている。

    (出所)ブルームバーグよりみずほ総合研究所作成
    (出所)ブルームバーグよりみずほ総合研究所作成

     世界的な需要の冷え込み、そして産油国の協調減産体制のほころびと供給圧力の増大から、原油価格に対する下落圧力が強まっている。懸念すべきは米国の低格付け企業における信用力の劣化である。低格付け社債の発行市場で約2割のウエートを占めているエネルギーセクターを中心に低格付け社債の信用スプレッド(米国債に対する金利の上乗せ幅)が急拡大に転じている(図2)。

     米国では過去最長の景気拡大が続く中で、企業債務が過去最高の水準にまで膨れ上がっている。相対的に信用力が劣る企業が低格付け社債やレバレッジドローンという形で債務を積み上げる動きも近年強まった。過剰流動性とも指摘されるグローバルなカネ余りの中で借り手、貸手(投資家)、そして仲介業者の信用規律の緩みも散見され、例えばレバレッジド・バイアウト(買収先の資産を原資に買収資金を借り入れる手法、LBO)案件での負債比率は昨年、金融危機直前のピークを超えた。コロナ・ショックを契機としてクレジット市場でのリスクの再評価が進めば、低格付け企業の格下げや破綻、低格付け企業向け投資マネーの逆流、ファンドなどの資金繰り悪化を通じて経済と金融の同時収縮に進むことになりかねない。

    万能薬でない金融緩和

     もちろん、そうした金融環境の悪化は金融当局としても看過できないものだ。米連邦準備制度理事会(FRB)は3月3日、金融危機直後の08年10月以来となる0・5%の、15日には更に1%の緊急利下げと期限付きの量的緩和(QE)を発表した。市場の混乱と一部での機能低下を受けた緊急避難的な対応であり、今後も、コマーシャルペーパー(CP)購入等の追加的な流動性供給・信用補完措置を迫られることもあり得よう。むろん、金融政策は万能薬ではないが「見えない敵」との未経験の戦いの中で政策が総動員されることになる。

     翻って日本経済。昨年10月の消費増税前から日本経済は既に後退局面入りしていた可能性が高い。増税後の19年10~12月期の成長率も年率マイナス7・1%と想定以上の大きさとなった。コロナ・ショックによる追い打ちで、1~3月期もマイナス成長を余儀なくされる公算が大きい。悩ましいのは米国が金融緩和を今後強めていく中で、日本では金融面での対応余地が限られ、円高圧力が強まりやすいことだ。中国発の世界経済失速、国内での消費萎縮、金融環境タイト化に伴う円高圧力増大の三重苦に見舞われる日本。国難とも言えるウイルス禍の中で、経済面での危機対応が急務だ。

    (長谷川克之・みずほ総合研究所チーフエコノミスト)

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