新型コロナで「ハイテク産業のサプライチェーンが寸断」がもたらす「最悪のシナリオ」=広木功(化学工業日報編集委員)
中国から世界中に広がった新型コロナウイルスは、エレクトロニクス産業にも大きな影響を及ぼしている。中国政府の読み通り、4月をメドに終息すれば、半導体世界市場の成長率は予想の6%を数%下方修正するだけで済みそうだ。だが、東京五輪の中止・延期という事態になれば、前年比で20%近く落ち込んだ昨年の実績(世界半導体市場統計)を更に10%以上下回る恐れがある。当然、もっとも大きなダメージを受けるのは日本だ。世界保健機関(WHO)のパンデミック(大流行)宣言によって、このワースト・シナリオが現実味を帯び始めた。
新型肺炎の発生地の武漢はハイテク産業の集積地であり、精華大学系のフラッシュメモリー会社である長江ストレージ(YMTC)や京東方科技集団、華星光電、天馬微電子といったフラットパネルディスプレー(FPD)大手が立地する。武漢エリアは封鎖され、人やモノの移動は制限されたはずだが、これらの日本拠点の関係者に聞くと「半導体もFPDも、工場はずっと稼働している」という。中国は重点施策として半導体メーカーなどに別格の扱いをしており、現地の日系サプライヤーも「材料供給を続けている」という。
春節で帰省した従業員が戻れなかったり、日本や米国、台湾の技術支援担当者がそろわなかったりすることで、稼働率は半分程度にとどまっているようだ。デバイスを生産できたとしても、梱包材やトラック運転手の不足といったサプライチェーン(供給網)の破断があれば出荷できない。世界需要の大半を生産する太陽光発電モジュールも同様であり、「太陽電池セルはできているが、日本への納期は延びている」(商社筋)という。
部品在庫は4月まで
新型コロナは欧米でも猛威を振るっており、個人消費の落ち込みは拡大傾向にある。日本が高い競争力をもつ製造装置や電子材料などの業界は、米国と中国の2大市場で大型投資を進めてきたが、米中を中心に電子デバイスを大量に搭載するスマホやテレビ、自動車が売れなくなれば、業績修正は免れない。最悪のシナリオは、感染が更に拡大し、終息時期が夏以降まで長引くことだ。米国も新型コロナを受けた景気刺激策を打ち出したが、米中2大市場でリセッション(景気後退)となれば、V字回復どころではない。五輪開催を前提に事業戦略を立ててきた日本が一番強く「コロナ・ショック」を受けることになる。
まずは春節用に蓄えていた部品在庫が底をつく3〜4月までに、事態がどう動くかだ。「夏過ぎまで肺炎の影響が長引くとは想定していない」(キオクシア)という希望的観測は、果たしてその通りになるのか。日本最後のDRAM半導体メーカー・エルピーダメモリ(2013年に米マイクロン・テクノロジーが買収)の元社長で、中国半導体大手・清華紫光集団の高級副総裁を務める坂本幸雄氏は「ワースト・ケースを考えておくべきだろう」と慎重な姿勢を示す。
■広木功(化学工業日報編集委員)
(本誌〈電子デバイス 五輪中止で10%以上の下振れも=広木功〉)