新型コロナで航空業界を襲う「未曾有の危機」を「JAL」「ANA」は乗り越えられるのか=姫野良太(JPモルガン証券シニアアナリスト)
新型コロナウイルスにより、2019年度第4四半期(20年1~3月)から航空各社の業績悪化が懸念されるが、そのマグニチュードは計り知れない。日本航空(JAL)と全日本空輸(ANA)は、3月までに公表予定であった中期経営計画の発表時期を延期している。
そもそも航空各社の業績は新型コロナが発生する以前から悪化懸念が強まっていた。背景には、(1)ビジネス利用の鈍化、(2)日中路線の供給増加による需給悪化、(3)20年3月29日からの羽田発着枠拡張による一時的な需給悪化──などがある。まず、ビジネス利用。電気機器や自動車といった製造業、金融業の業績悪化とともに、欧米向けビジネス利用減少が第2四半期(19年7~9月)ごろから見られるようになった。
次に、日中路線の供給拡大だが、中国キャリアが第3四半期(10~12月)より日中路線の供給を増やしたことで需給が悪化。JAL、ANAともに、それまで80%前後あった中国線座席利用率は、第3四半期に60%台まで低下した。
そして、羽田拡張による需給悪化懸念。羽田空港では現在年間44・7万回の発着枠を3・9万回増やし、これを国際線に割り当てる。過去を見ると、発着枠が拡大した10年10月や14年3月直後は、一時的に需給が悪化し、座席利用率が低下する傾向だった。
以上のように、そもそも不透明であった事業環境に追い打ちをかけるがごとく、新型コロナが発生した。当初は中国線への影響のみを懸念していたが、その後、日本を含む世界規模への感染拡大となり、影響は深刻さを増している。例えば、JALの現時点(3月13日)での3月予約動向は国際線が前年同月比65%減、国内線が同50%減。ボトム水準は見えつつあるが、底打ちタイミングは見通せない。
コスト削減が鍵
座席利用率については、今後減便を加速するため、最終的にどの水準に落ち着くかは読めない。3月の瞬間風速で国際線・国内線共に40%程度と、ブレークイーブン(国際線は60%後半、国内線は50%強と推察)を割ってきている。
東日本大震災(3・11)時には、それまで80%前後あった国際線座席利用率が60%前後まで低下したが、状況は震災当時以上に深刻になっている。JAL・ANAの財務体質はグローバルエアラインの中でも相対的に強固ではあるが、海外航空会社や国内中小航空会社の破綻が起これば、信用リスクは一気に高まるだろう。
今後は、新型コロナの終息時期に加え、各社のコスト削減にも注目する。減便を実施することで、燃油費や空港使用料などのオペレーションコストは抑制できる。一方、機材費や人件費の抑制は容易ではない。新型コロナ終息後は、従来の拡大路線が再開すると見られるため、安易な人員削減、機材退役は進めにくい。採用時期の後ろ倒しや、期間限定の無給休暇、機材調達計画変更等の対応を進める必要があろう。
■姫野良太・(JPモルガン証券シニアアナリスト)
(本誌〈航空 「3・11」よりも深刻なリスク=姫野良太〉)