新型コロナ不況で「会計士」にリストラの嵐が吹き荒れる理由=岡田英/浜田健太郎
「監査法人でまた大量のリストラが始まるのでは」。新型コロナウイルスの感染拡大で景況感が急速に悪化する中、監査法人関係者の間でこんな観測が飛び交っている。
彼らの脳裏には、大手監査法人が2008年のリーマン・ショック後に行った大量リストラの悪夢がよぎる。監査法人はリーマン後の景気悪化で新規上場企業が急減し、企業から受け取る報酬の引き下げ要請もあって収益が悪化していった。10年ごろから数百人規模の早期希望退職者を募る監査法人が相次いだ。また、09年以降に採用人数を大幅に絞り、公認会計士試験に合格しても就職できない「浪人」も続出した。(会計士・税理士)
厳しくなる転職
「辞めるとしても、同じ給与水準の転職先を探すのがきつくなる」と40代の公認会計士は漏らす。会計士専門の転職支援会社ピー・シー・ピー(東京都文京区)が会計士約1000人に行ったアンケートの結果では、40代の約6割は年収1000万円を超えており、同水準の転職先は限られる。監査法人の中でも、監査報告書にサインする「パートナー」と呼ばれる幹部に上り詰めるのはほんの一握りだけで、入社10年以内に約9割が退職してコンサルティング会社や事業会社などに転職しているが、景気が悪化して採用が絞られるとさらに行き先が限られ、「キャリア不安」が生じかねない。
ちょうど、会計士の「人気」が回復の兆しを見せたところだった。人手不足に悩む大手監査法人が採用数を増やす中、公認会計士試験の出願数・合格者の減少はともに、15年度に底を打ってから少しずつ増加を続けてきた(図1)。19年度の合格者に占める30歳未満の比率も82%で、10年前(76%)から微増。およそ5人に4人は20代のうちに合格している。
コロナショックによる影響は受験生にはあるのか。資格取得学校TAC(東京都千代田区)によると、公認会計士試験に向けた同社の講座申し込みは通信教育を中心に外出自粛に伴う「巣ごもり需要」で4割ほど伸びているという。ただ、景況感が悪化していく中で、横山太一執行役員は「監査法人が『採用できません』となって会計士の就職難が生じると、目指す人が減ってしまう恐れがある」と先行きには不安も感じている。
高齢化する税理士
一方、税理士は受験者数の減少が止まらない。09年度の約5・1万人と比べると19年度は約3万人で、10年で約4割も減っており(図2)、「税理士離れ」が顕著だ。合格者の「高齢化」も進んでおり、合格者に占める41歳以上の比率は10年前に20%だったのが36%にまで上昇している。
不人気の背景には、インターネット上で企業の帳簿を管理するクラウド会計ソフトの台頭がある。独立・開業した税理士の王道だった会計事務所の多くは従来、記帳代行や税務申告を主な業務としてきたが、こうした旧来のビジネスモデルではいずれ立ちゆかなくなる可能性が高い。
15年に発表された野村総合研究所と英オックスフォード大の共同研究では、15年時点からの10~20年で人工知能(AI)やロボットによる自動化で代替される確率が、税理士は92・5%、会計士は85・9%とはじいた。あれから5年たち、代替が劇的に進んだとまでは言えないものの、定型業務の自動化は少しずつ進んでいる。
大手監査法人も、デジタル化やAIを監査に導入し始めた。日本では会社ごとにシステムやデータ形式が異なることが多く、監査ツールに取り入れて分析するのに人手や時間がかかっており、AIを使って監査先の財務・非財務データを常時チェックするリアルタイム監査はまだ試行が始まりつつある段階だ。
一方で、こうしたデジタル化の投資額は技術者の採用強化などで膨らみ、各監査法人の収益に重くのしかかっている。足音が近づきつつある「コロナ不況」が長期化すれば、監査先の企業も苦しくなり、監査報酬を引き上げづらくなってくる。
こうした中で、AIやデジタル技術を活用して作業を効率化し、コンサルティングなどAIに代替されない付加価値の高い仕事に特化していくことがますます求められる。逆にデジタル化の波で淘汰(とうた)されつつあった古い士業の仕事は、コロナ不況の到来が「寿命」をさらに縮めることになりそうだ。
(岡田英、浜田健太郎・編集部、本誌〈大量リストラの再来も 高まる“キャリア不安”=岡田英/浜田健太郎〉)