苦境の欧州銀行 不良債権がじわじわ拡大の恐れ=大槻奈那
欧州、とりわけイタリアの新型コロナウイルス感染が鎮まらない(図)。感染拡大に反比例する形で株価も低迷している。イタリア政府は、3月11日に、GDP(国内総生産)の1・5%に相当する250億ユーロ(約3兆円)の緊急財政支援を採択、個人の住宅ローンや中小企業の借り入れに政府保証を付与し、銀行に返済猶予を求めた。(新型コロナの猛威)
では、協力を求められているイタリアの銀行は、これを受けられるのか。イタリアの金融機関の自己資本比率(普通株式等Tier1)は平均13・3%と2007年からほぼ倍になっている(18年末)。とはいえ、依然として、不良債権比率は8%台と高く、金額でいえば依然EU(欧州連合)域内で最大だ。これらの不良債権は、じわじわと表面化していく。
さらに、政府の今の施策が十分かは不透明だ。夏の休暇シーズンに間に合わなければ、観光やレストラン、小売店などの対面型ビジネスはさらに大打撃を被るだろう。これらの企業に対する与信額は23兆円に上る。平均貸出期間を3年と仮定すると、1年間に8兆円は満期を迎える。
加えて、イタリア国債の金利上昇(債券価格は下落)が目立つのも不安材料だ。イタリア国債も、他国につられ1%を下回るほど、買われた時期もあった。ところが、感染拡大で様相は一変し、10年国債利回りは1%台後半まで急上昇した。イタリアの金融機関の政府向け与信は資本の2・7倍にも上る。欧州主要国の中では突出しており、含み損の拡大が懸念される。
なお、イタリア政府は、更なる財政政策策定に乗り出しているというが、昨年秋に、EUと予算でもめたばかりだ。26日には、EU全体によるイタリア支援策が見送られた。
独大手行にも懸念
他にも、ドイツの大手行の動向も気がかりだ。リスク資産を処理したことで、一時期よりは状況は改善している。例えば、主要国の中央銀行と監督当局が組織する金融安定理事会(FSB)は昨年11月に、ドイツ銀行のリスク評価を1段階緩和した。しかし、その後10〜12月期でも赤字となるなど、再編は依然道半ばだ。コロナショックを受け、3月20日には、年度計画の達成は難しいと発表している。
このようなリスクシナリオが現実のものになるかどうかは、経済活動の正常化までの時間次第ということになろう。もっとも、短期に解消したとしても、超低金利というコロナショックの“後遺症”に悩まされる。欧州の金融機関は再び正念場を迎えつつある。
(大槻奈那、マネックス証券チーフ・アナリスト)