経済・企業コロナ恐慌

欧州の危機はこれから 米国はパニック状態=市川明代/桑子かつ代

「このまま対策がなされなければ、資金繰り倒産が続出する」

 東京商工リサーチの友田信男常務取締役情報本部長は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に危機感を強める。今回は、中小零細の飲食業や小売業といった川下の企業から、時々刻々と経営が危機的状況に陥っており、米金融機関の破綻と金融市場の大混乱によってグローバル展開する大企業から経営危機に陥った2008年のリーマン・ショック時とは状況が全く異なるという。(コロナ恐慌)

「売り上げが蒸発した」

 中国湖北省武漢市で、ウイルス性肺炎の集団感染の患者から新型コロナウイルスが検出されたと報じられたのは1月9日。延べ30億人の中国人が大移動する春節(旧正月)の2週間前だった。中国政府などは1月23日に武漢の閉鎖を発表、27日には中国から海外への団体旅行を禁止し、世界中の観光産業が打撃を受けた。

 特に深刻なのは日本だった。2019年の訪日中国人客は前年比14・5%増の959万4400人。日韓関係の悪化によって韓国からの観光客は落ち込んでいるだけに、衝撃は大きかった。

 その後の感染拡大によって世界各国に出入国制限の動きが広がり、同時に国内の自粛ムードも高まったことで、宿泊業や飲食業、小売業を中心に、5~8割の売り上げ減少に直面している。「売り上げが蒸発した」と、都内の高級ステーキ店の店長は悲鳴を上げる。

 中小・零細企業は通常、1カ月から1カ月半程度の現預金を確保して、事業を回す。ただ、多くは昨年10月の消費増税や台風によって体力を奪われており、既に資金ショートし始めている企業も少なくないという。政府がこれまでに打ち出した資金繰り対策は、中小企業が融資を受ける際につける信用保証枠と緊急貸し付けを含めても、約1兆6000億円に過ぎない。

 友田氏は「企業の惨状を考えると、リーマン・ショックと同じくらいの30兆円規模が必要だ」と指摘する。

 東京商工リサーチによると、愛知県の旅館・冨士見荘や大型レストラン船「ルミナス神戸2」の運航のルミナスクルーズなどコロナ・ショックがとどめとなった「コロナ倒産」は3月18日時点で9件になった。今後は、迅速な対策がなければ、売り上げ急減に伴う倒産が急増しかねない。

 震源地の中国では、既に感染が終息に向かっているとされる。

「第1フェーズでは、世界の工場であり世界の市場である中国が機能不全に陥ったことで、世界経済は大きな打撃を受けた。第2フェーズでは、欧米主要国への感染の広がりによって、中国で生産した物を消費する国がないという状況になる恐れがある」

(出所)世界保健機関(WHO)
(出所)世界保健機関(WHO)

 ニッセイ基礎研究所の三尾幸吉郎上席研究員はこう語る。主戦場は欧米主要国へと移っている(図1)。

「今や欧州がパンデミック(世界的大流行)の中心地となった」

 世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は3月13日、こう断言した。

イタリアの銀行破綻も

 イタリアでは、3月16日に死者が2000人を超えた。繊維産業が集中するミラノを中心に、中国との関係を深めてきたイタリアは、中国との間で日常的に人の行き来がある。イタリア政府は3月10日に国内全土で移動を禁止する措置を開始したが、それでも感染者の増加は止まらなかった。

「イタリアは観光業のGDP(国内総生産)に占める割合が13%と、日本(7%)の2倍近く、国境の断絶による経済的打撃は大きい。中小企業も多く、事態が長引けば資金繰り倒産が相次ぐ恐れがある」

 第一生命経済研究所の田中理主席エコノミストはこう指摘する。

 欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は3月16日、EU域内に不要不急の理由で入ることを原則禁止する、事実上の封鎖措置を取った。欧州はシェンゲン協定によって人の行き来を自由にしており、例えばイタリアでは、フランスなどと日常的に数万人単位の労働者の行き来があるという。

 だが、協定が感染拡大の一因になったという指摘もあることから、ドイツやフランスは圏内の国に対しても国境を閉ざす措置を取っている。

 大和総研ロンドンリサーチセンターの菅野泰夫センター長は「イタリアは4月3日までの2週間、フランス、スペインは15日間の国内全域を移動禁止にした。しかし、2週間後に状況が良くなっているかどうかは分からない」と語り、こう続ける。

「欧州の危機的状況はこれからだ。中小企業の倒産やベンチャー企業の破綻などが次々と起こる可能性がある。資産運用会社に注力している銀行なども引当金を積み増す必要があるだろう。イタリアは今月中にも金融機関の破綻が出てきてもおかしくない状態だ」

7~8月まで続く

(注)赤は景気後退 (出所)米銀連
(注)赤は景気後退 (出所)米銀連

 市場関係者が最も懸念するのは、底堅い個人消費によって世界経済をけん引してきた米国の景気後退だ。トランプ大統領は3月13日に「非常事態宣言」を発令、16日には感染拡大が7〜8月まで続くとの見立てを示し、景気後退入りの可能性を示唆した。米国内では、飲食店や娯楽施設の営業停止、外出禁止などの感染抑制策を取る州や自治体が増えている。米ニューヨーク連銀が3月16日に発表した3月の米製造業景況感指数はマイナス21・5と、2月の12・9から大幅に低下し、2009年以来最も低い数字となった(図2)。

銃販売店の前で列を作り入店を待つ人たち(米西部カリフォルニア州ロサンゼルス近郊)福永万人撮影 
銃販売店の前で列を作り入店を待つ人たち(米西部カリフォルニア州ロサンゼルス近郊)福永万人撮影 

 米国民の間では、パニックともいえる現象が始まっている。スーパーのレジの前には買いだめのための長い列ができ、店舗によっては商品がほとんどないところも出てきている。国民の不安心理を象徴しているのが、銃の販売数の急増だ。全米各地で、銃の販売店の前に並ぶ人々の姿がみられる。

 市場はその不安を反映している。米国株式市場では、感染拡大とともにダウ工業株30種平均が乱高下し、3月16日には過去最大の下落幅を記録、17日には3年1カ月ぶりに2万ドルを割った。ニューヨーク証券取引所では取引の一時停止措置(サーキットブレーカー)が繰り返されている。

 ドイチェ・アセット・マネジメントの根岸厚ポートフォリオ・マネジャーは「この2~3週間、すべての資産を現金に戻す動きが急速に進んでいる」と語る。今後の感染拡大の動向次第では、リーマン・ショック時のような金融システム不安につながる可能性も否定できないとみている。イタリアやフランスなど欧州の金融機関の破綻や格付けの低い高利回り債(ハイイールド債)の債務不履行、大幅な人員削減などリーマン・ショック後の混乱が再来する可能性もありそうだ。

 トランプ大統領は3月17日に、総額1兆ドル(約107兆円)の巨額の経済対策を検討すると表明したが、明治安田生命の小玉祐一チーフエコノミストは「感染を抑えるために経済活動の自粛を国民に要請する一方で、経済対策を同時に実施するというのは矛盾する。まず感染拡大を抑制し、その進捗(しんちょく)をみながら、しかるべきタイミングで経済対策を1度ではなく、2度、3度と打つべきだ。それを主要国で協調して実施するのが理想」と言う。

(市川明代・編集部)

(桑子かつ代・編集部)

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