マーケット・金融コロナで急変 世界経済入門

何が起きるか/4 世界低金利の罠 過剰債務下の“金利急騰”が危機誘発=斎藤満

米国シェール企業の社債が不安視されている(Bloomberg)
米国シェール企業の社債が不安視されている(Bloomberg)

 景気の改善で上昇し、悪化で低下することから“経済の基礎体温”と言われる長期金利が、世界的に低下している。

 マイナス金利になる国も増えており、比較的高い金利の国債を供給していた米国でも、代表的な長期金利である米10年国債利回りが3月9日、0.5%台と過去最低を付けた。新型コロナショックで株などのリスクス資産が敬遠され、安全資産とされる米10年債に資金が流入したのだ。

 長期金利は一般に、短期金利に次の三つの要素を加えて決まるといわれる。すなわち、(1)期待インフレ率(家計や企業が予測する将来の物価変動率)、(2)期待成長率(資産運用で将来期待できる平均的リターン)、(3)リスクプレミアム(リスク資産の期待収益率から無リスク資産の収益率を引いたもので、大きいほど投資意欲を高める)――である。

 世界的に政策金利がゼロ近辺にありインフレ期待が低下しているとはいえ“昨年来の世界株高に表れた期待成長率の高さ”や“各国の財政赤字拡大などに伴うリスクプレミアムの高さ”を考えれば、今の低金利のまん延は異常だ。

 背景にはリーマン・ショック後の主要国の大規模な金融緩和がある。実体経済の反応が鈍かったため、ますます緩和は強化され、資金は株や債券など金融取引に向けられた。(世界経済入門)

信用低い米企業に貸出「60兆円」超

(注)米総債務額は家計、企業(金融を除く)、政府の合計額 (出所)ブルームバーグから編集部作成
(注)米総債務額は家計、企業(金融を除く)、政府の合計額 (出所)ブルームバーグから編集部作成

 世界的な低金利は多くの不安定要素を秘めている。まず、新興国から先進国まで、債務が膨張している。特に米国では信用力の低い企業向けの貸し出し(レバレッジド・ローン)が急増し、これを証券化した「CLO(ローン担保証券)」の発行残高が6000億ドル(1ドル=106円換算で約64兆円)を超えた。

 また長期金利の低下で、満期の期間ごとに金利を並べたイールドカーブ(利回り曲線)はフラット化(金利差がなくなる)。米国では一時、10年国債利回りが3カ月国債利回りより低くなる「逆イールド」が発生。経済が景気後退に入る前兆と言われる。短期資金を調達し、長期で運用する銀行はさやが抜けず、「信用創造」が機能しなくなり、意図しない金融引き締めが起きやすくなるためだ。

 米国も日本も、金融政策は限界に来ており「財政政策シフト」が見られる。だが、財政拡張は「もろ刃の剣」だ。米国では、もともと財政赤字、政府債務が拡大しているため、さらなる財政赤字拡大策で、景気回復期待と財政赤字懸念の両面から長期金利が上がりやすくなる。実際、トランプ米大統領が新型コロナウイルス対策として、給与減税も含めた大規模財政拡大策の意向を示しただけで、10年国債利回りは0.5%から0.8%台に急騰(国債価格は急落)した。

 国債以上に危ぶまれるのが、リスクの大きいハイイールド債(ジャンク債)だ。これまで少しでも高い金利を求めた投資家は、低格付けでリスクの大きいハイイールド債を購入してきた。そこへ金利が上昇(価格が下落)すると、真っ先にジャンク債が売られる。

 原油価格の急落で、利益が圧迫された米国のシェール企業のジャンク債が不安視されている。金利上昇懸念の強まりでジャンク債が売られ、さらにCLOへ波及すれば、より高リスク証券の相場が急落しかねない。

 米10年債利回りが今後数カ月で2%まで急騰するようなことがあれば、危機が表面化する可能性が高い。危機を回避するには、米政府が増発した国債を米連邦準備制度理事会(FRB)が吸収することで、時間をかけて2%まで上げる必要があり、その時期は早くても年末だろう。米政府とFRBには緊密な連携が求められる。

(斎藤満・エコノミスト)

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