感染拡大で工場自動化加速 SMC、安川電機に期待=神崎修一/加藤結花
<第1部 注目銘柄&市場の実相>
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は世界経済に大きな影響を与え、日本株もその例外ではない。いまだ感染の終息を見通せる状況にはないが、コロナショック後の世界の変化を見据え、株式市場はすでに動き始めている。大きな注目を集めているテーマの一つが、人間に代わって機械やロボットの能力を活用し、工場の生産効率化を図る「ファクトリーオートメーション」(FA)だ。(日本株)
空気圧制御の技術
空気圧で動作させるFA用空圧制御機器で世界シェア首位のSMC。同社株価の4月8日終値は前日比1・2%高の4万7880円で引けた。コロナ禍の中で3月16日に付けた年初来安値3万7620円から27・3%の上昇となり、この間のTOPIXの上昇率15・3%を大きく上回る。1月14日の年初来高値5万3950円は回復していないものの、足元の株価は年初来高値に比べ11%安の水準と、TOPIXの下落率より小幅だ。
SMCが得意とする空気圧制御技術とは、空気の力を使って「押す」「持ち上げる」「運ぶ」などさまざまな動きを実現すること。この技術を活用した同社の制御機器は自動車や半導体の工場のほか、食品包装にも活用されている。外からは見ることができない部品だが、人の代わりに作業を自動化する機械の中に部品やパーツとして組み込まれており、工場の自動化や省力化には欠かすことはできない。
コロナ禍の中で多くの製造業が意識したのは、生産活動の根幹をなす工場で感染症が広がった場合でも、いかに生産活動を継続するかという点だ。「コロナ問題が落ち着けば、サプライチェーン(部品供給網)の再構築を考えたり、工場へ新たな投資をしようという動きが出てくるはず。その時のキーワードはFAだ」とJPモルガン証券の佐野友彦シニアアナリストは強調する。
FAはコロナ禍の以前から、5G(第5世代移動通信システム)やICT(情報通信技術)の進展とも軌を一にして市場が拡大しており、株式市場でも大きなテーマの一つとなっていた。世界的なコロナウイルスの感染拡大は、FAをさらに加速させる契機となりうる。SMC株価の値動きを見ても、株式市場はコロナ後の世界を見越してすでに動き始めていると言えるかもしれない。
オムロン、キーエンスも
SMCのほかにも、日本企業にはFAに絡む銘柄が少なくない。安川電機は産業用ロボットで世界4大メーカーの一角を占める。サーボモーターと呼ばれる産業用ロボットの「関節」として使われる主要部品も製造し、他社の産業用ロボットや工作機械にも供給する。また、人手不足が深刻で、コロナ禍の中でも安定供給が求められる食品・医療品などのいわゆる「三品産業」へも拡大を目指している。
オムロンはFAの制御機器事業が売上高の46%を占める主力部門だ(2019年3月期連結)。頭脳にあたるコントローラーや目となるセンサーなど約20万点に及ぶ製品を供給し、工場の製造ラインを自動制御する。同社は今年1月、東京・品川に大規模なFA技術の体験施設を新設し、顧客企業へ自動化の導入を促す。キーエンスは、人間の目にあたるセンサーを中心にFA用機器を幅広く手がける。
こうしたFA関連銘柄の株価は、市場全体がショックを受ける中で健闘が目立つ(15ページ図)。SMCは中でも、コロナウイルスの震源地となった中国に置く工場が、他社に先駆けて2月3日から稼働した。現地政府との良好な関係も背景にあると見られ、4月7日時点で20年3月期連結の純利益予想1050億円を据え置いていることにも注目が集まる。
ネット証券口座が急増
リーマン・ショック(08年)以来の大荒れとなった日本株市場では、割安と判断した個人投資家が積極的に買いに向かっている。楽天証券経済研究所の窪田真之チーフ・ストラテジストが、東京証券取引所公表の「主体別売買動向」から2月25日~3月19日の日本株市場の売買を分析したところ、個人投資家は約1兆2800億円を買い越し、最大の買い越し主体となった。
対照的に大幅に売り越していたのは、売買シェアの7割を占める外国人投資家で、この間に約1兆6000億円を売り越していた。窪田氏は「株価を暴落させたのは外国人投資家。外国人は日経平均株価の先物も売っている。外国人が大量に売って、年金や個人投資家が購入するというのはリーマン・ショックの時と構図は同じだ」と話す。
個人投資家の関心の高さを裏付けるのが、インターネット証券での新規口座開設数の急増だ。楽天証券は今年3月の新規口座開設が16万4011口座と過去最高を記録。2月も10万5940口座と初めて10万件台の大台に乗せたばかりだった。ネット証券最大手のSBI証券でも3月は約12万件の口座開設があり、同社としては過去最高を記録した。
政府が非常事態宣言への検討に入ったと報じられた4月6日には国内で緊張が走ったが、日経平均株価は前日比で756円高の1万8576円と上昇した。同日の米国市場もダウ工業株30種平均(NYダウ)が1627ドル高の2万2679ドルで取引を終えた。野村証券の伊藤高志エクイティ・マーケット・ストラテジストは「欧州で新たな感染者数が減少したことを好感した」と指摘した。
世界保健機関(WHO)の統計によると、4月6日現在でスペインの新規感染者数は前日比1003人減の6023人、イタリアでは同489人減の4316人。三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩シニアストラテジストは「今回の株安はウイルスが原因であり予想は難しいが、4月中に感染が終息に向かえば、6月までに日経平均株価で2万円台を回復する可能性もある」と説明する。
「割安」水準の株価
日経平均株価の実績PBR(株価純資産倍率)は13年以降、1倍以上での推移が続いていたが、今回のコロナショックによる急落で、3月16日には0・82倍と割安な水準に落ち込んだ。しかし、「100年に1度の危機」と言われたリーマン・ショックでも0・8倍台から回復しており、ブーケ・ド・フルーレットの馬渕治好代表は「現在の株価はすでに底値圏にある可能性が高い」と話す。
世界経済がリーマン・ショックを乗り越えたように、いつかコロナ禍が収まる時は訪れ、景気や企業業績が回復する時もやってくる。その時を見据え、動き出すのは今かもしれない。
(神崎修一・編集部)
(加藤結花・編集部)