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コロナで余った「アレ」で作られたクラフトジンが飲食業界の危機を救う=望月麻紀 

    ビールをタンクに入れ、作業スタッフの後ろに見えている蒸留窯に送り込む(筆者撮影)
    ビールをタンクに入れ、作業スタッフの後ろに見えている蒸留窯に送り込む(筆者撮影)

     フクロウマークのクラフトビール「常盤野ネストビール」が欧米でも人気の木内酒造(本社・茨城県那珂市)が4月、新型コロナウイルス感染拡大で余ったビールの救済に乗り出した。営業自粛で売れなくなったクラフトビールを飲食店などから引き取り、木内酒造の蒸留所でジンに加工して“延命”させる。食品ロス削減にもなる取り組みが、店を救う。

     東京・JR秋葉原駅高架下にあるレストラン「常盤野ブルーイング東京蒸留所」は、木内酒造の直営レストランだ。店内には、ジンやウイスキーなどの蒸留酒を作るための小型のポットスチル(蒸留窯)があり、蒸留を眺めながら食事を楽しめる。

     2019年12月に開店し、今年3月に蒸留免許が下りたばかり。自社製ビールなどを蒸留して各種スピリッツを提供し始めたところだったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で4月8日から営業を自粛した。

     この店に、各地の飲食店が在庫として抱えていたビールが続々持ち込まれている。賞味期限が短いクラフトビールのほか、大手メーカーの製品もある。木内酒造はこれらのビールを東京蒸留所の蒸留窯を使ってクラフトジンに加工する。

     加工の工程は、まず6~7時間かけて一次蒸留し、次にジン特有の香りを生むジュニパーベリー(セイヨウネズの実)を入れ、再び6~7時間かけて蒸留する。100㍑のビールからできるジンは約8㍑(750㍉㍑入り約10本)。7月以降、各店に引き渡すという。

    蒸留窯に張り込まれたビール。ここから一次蒸留に6、7時間かかる(筆者撮影)
    蒸留窯に張り込まれたビール。ここから一次蒸留に6、7時間かかる(筆者撮影)

     木内酒造では、保存が利く蒸留酒に加工することで、コロナ禍終息後に店が再開した時、客との再会を祝ってほしいという願いを込め、この「SAVE BEER SPIRITS」プロジェクトを始めた。

     木内敏之副社長は「うちも困っていることだから、皆さんも困っているだろうと思って」と発案した経緯を説明する。東京蒸留所も、歓送迎会などの春の需要増に向け準備をしていたが、新型コロナウイルスの感染拡大が直撃した。

     このプロジェクトの蒸留は無料。木内酒造には、持ち込まれたビールの酒税が国から戻るため、それを加工料にあてるという。これも木内副社長の発案。ビールの世界市場で成功するだけの経営手腕がここでも光る。

     プロジェクト発表から2週間で関東を中心に、大阪や熊本などからも約20件の申し込みがあった。飲食店以外に輸入業者からも相談を受けたり、発泡酒の加工の要望が寄せられたりしたため、茨城県にある木内酒造の八郷蒸留所(石岡市)、額田醸造所(那珂市)の2か所でも受け入れる。

     応募した店の一つ、東京・新橋にあるビアホールレストラン「BIER REISE‘98」は大手メーカーの生ビール19㍑樽10本を抱えていた。後に大手メーカーも回収に乗り出したが、その前に木内酒造のプロジェクトを知って申し込んだ、オーナーの松尾光平さんは「店のビールをジンに変えるというのは今だからこその発想。終息後にハウスジンとして提供し、お客さんに楽しんでもらいたい」と話す。

    ジン特有の香りを生むジュニパーベリー(筆者撮影)
    ジン特有の香りを生むジュニパーベリー(筆者撮影)

     コロナ禍前、クラフトジンの人気が世界的に高まり、国内焼酎メーカーなどが相次いで参入したところだった。終息後のジン人気再燃への期待が高まりそうだ。(ライター・望月麻紀)

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