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激動マーケット4 米株は夏場上昇 ダウ「V字回復」の5要因 年度末2万4000ドル=荒武秀至

米株は高値を取り戻せるか……(Bloomberg)
米株は高値を取り戻せるか……(Bloomberg)

 3万ドルを目指して史上最高値を更新し続けていたダウ工業株30種平均株価(NYダウ)は、コロナショックによって3月23日に大底の1万8591ドルを付けた。「恐怖指数」と呼ばれる市場の不安心理を示す「VIX指数」は3月に過去最高水準の82・69を記録した。

 これまで、VIX指数が跳ね上がった局面では、約2カ月後に株価が大底をつける傾向がある。今回も5月ごろに米国株は「二番底」をうかがうとみて妥当だろう。

 VIX指数の急上昇に加えて、さらに最大の悪材料となりそうなのは、これから発表される米国の経済指標で、市場予想を上回る景気悪化が確認されそうなことだ。NYダウは下落分の半値戻しの2万4000ドルまで一時戻したが、5月上旬までは米欧の月次経済統計と企業決算の大幅悪化が見込まれる。その場合、株価は3月安値を再び試す恐れがある。(コロナ経済)

トランプが株価対策

 米国の新規失業保険申請は、3月第3週から4月第2週までの4週間で2203万件に上り、それだけでも失業率を13・5%ポイント押し上げる要因となる。その後の申請件数も含めると5月8日発表の失業率は20%程度に急上昇する見通しだ。

 そこまでの悪化を市場はまだ織り込み切れていない。コロナ終息を先取りして株価の大底を見極めたい楽観と、これから発表される大幅悪化の経済指標を受け、株価下押しを警戒する悲観のはざまで、米国株は5月にかけ乱高下が予想される。

 しかし、目先の株安は「拾い場」とみている。年後半にかけて米株がV字回復する可能性があるからだ。理由は五つある。

(出所)世界保健機関(WHO)より三菱UFJ国際投信作成
(出所)世界保健機関(WHO)より三菱UFJ国際投信作成

 第一は、4月時点でコロナ感染拡大の震源地となっている米国・欧州・イランにおける感染終息期待だ。4月上旬から同地域での新規感染者の増加ペースは鈍っており、世界全体の新規感染者数も峠を越えつつある(図1)。また、感染後に回復する人数も増えており、累計感染者から回復者と死者を除いた「現在の感染者数」がドイツ・イラン・スイスなどで減少し始めた。今後はワクチン開発の実現も期待できる。

 第二は、今回の世界恐慌はバブル崩壊や金融システム破綻に起因するのではなく、人為的経済封鎖が原因だからだ。従って、経済封鎖を解けばペントアップ需要(抑圧されてきた潜在需要)が一気にはじけるであろう。

 第三は、米政府による経済対策だ。3月27日に家計への現金給付など2兆ドル(約215兆円)の支援策を議会が承認したが、さらにインフラ投資など追加で2兆ドルの経済対策を米政権が打ち出した。合計で米国の国内総生産(GDP)の2割に及び、実施されれば下期の景気に強い追い風となろう。

 第四は、米国の月次経済指標は前月比が多いため、4月の経済封鎖で5月発表の指標が悪化しても、6月発表の指標からは最悪期が過ぎたことを確認できる。

 第五は、11月3日に大統領選を控えるトランプ大統領としては、選挙対策としてなりふり構わぬ景気浮揚・株高策を打ってくることが予想されるためだ。5月下旬から夏場までに、株価が急反発する可能性が高く、NYダウは4~5月の底値模索の後、夏場の急反発を経て、大統領選を迎える11月には再び2万5000ドルを回復すると予想している。

 米大統領選後、コロナ恐慌からの戻りは一巡するだろう。10~12月は期末の季節的な株高傾向が残るかもしれないが、21年1~3月は株価も小反落する見通しだ。

 株価の重しになるのは二つあり、一つ目は、米欧の感染が下火になっても、新興国で感染者が増える恐れがあることだ。二つ目は、国内の経済封鎖を解くことはできても、海外からのコロナ感染者の入国を回避するための「鎖国」状態の長期化である。世界的なコロナ終息宣言は21年以降に後ずれするかもしれない。

 世界経済はグローバル化のメリットを享受できなくなる。ヒト・モノ・カネの移動が阻害される。この構造変化が株価の上値を重くするため、21年3月末は2万4000ドルとみている。

航空・5Gに期待

 個別セクターの株価は株式市場全体の動きに対し、異なった時間軸で対応する可能性がある。米国でのコロナ感染終息と経済封鎖解除の方向性がみえる5月下旬から夏場に、急反発が予想されるが、業種により大きな差が出る。

 経済封鎖の影響をまともに受けた外食、レジャー、観光、ホテル、空運などが急反発する可能性がある。3月の非農業部門雇用者が前月より70・1万人減少したが、このうち45・9万人は外食・宿泊・娯楽・レクリエーションだった。逆に、コロナ感染終息に伴い経済正常化の恩恵も大きく受けるだろう。

 こうした株価反発の動きが一巡すると、投資家の視点は中長期の業績見通しに移る。株価変動が相対的に小さく、着実な利益成長が見込みやすい生活必需品が狙い目だ。

 次に、コロナ発生で医薬品需要の高まるヘルスケア、テレワーク導入が浸透し利便性を高めるシステムやサイバーセキュリティーも期待される。従来の主要テーマだった次世代通信規格5G(第5世代移動通信システム)、人工知能(AI)、クラウド、ソフトウエアなども再び注目されよう。

 ただS&P500情報技術株指数は価格変動が大きいうえ、株価収益率(PER)も24・1倍(4月9日)と2月の29倍よりは低いが、過去10年平均18・8倍を上回り割安とはいえない。情報技術のなかでもテーマの絞り込みが鍵となりそうだ。以上が筆者の考えるメインシナリオである。

(出所)筆者作成
(出所)筆者作成

 最後に、コロナ感染終息に時間がかかる場合のリスクシナリオも付け加える。その場合は5月に二番底を付けたのち、一段の下落を予想している。最安値は8月に1万6000ドル近辺まで下がる可能性がある(図2)。それ以降の株価の上昇トレンドはメインシナリオと同じだが、下期も欧米で経済封鎖が続くとの前提で株価の上昇幅は限定的にみている。

(荒武秀至・三菱UFJ国際投信チーフエコノミスト)

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