「世界恐慌」並みの米失業 石油企業破綻で金融危機も=市川明代/桑子かつ代
<大予測 コロナ経済&マーケット>
国際通貨基金(IMF)は4月14日に発表した経済見通しで、2020年の世界の経済成長率を前年比マイナス3%と予測し、「世界恐慌(1929~30年代後半)以来、最悪の景気後退となる」との見方を示した(図2)。
世界経済をここまで落ち込ませたのは、新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的に、各国が採っている厳しい外出制限や都市封鎖などの措置だ。
米国では、3月28日までの1週間の失業保険申請件数(季節調整済み)が686万7000件に上り、リーマン・ショック後最大だった65万9000件の10倍に達した。JPモルガン証券チーフエコノミストの鵜飼博史氏は、米国の4~6月期の失業率が20%と大恐慌以来の水準まで悪化すると予想する(図1)。
12万5000人の従業員を抱える米国の大手百貨店メイシーズが3月18日以降、全店舗を閉鎖。小売業界を中心に一時解雇の動きが広がった。今後は活動自粛の影響で、さらに幅広い業種で失業者が増えると見られる。
一方、ニューヨークでは新規感染者増加の伸びが4月に入り減少に転じるなど、終息の兆しも見えてきた。活動自粛が徐々に解除されれば、失業率も最悪の状況を脱すると見られる。ただし、レストランやレジャー施設などでは一定程度自粛が続き、コロナ感染の「第2波」などの不透明さも残る。鵜飼氏は年末の米国失業率を8・8%とし、「元の水準に戻るには時間がかかる」と分析する。
日本総研は、今年半ばまでに世界で7000万人が失業し、失業率は7・4%に上り、21世紀以降で最悪の水準になると予想する。マクロ経済研究センター所長の石川智久氏は「米国ほど極端ではないにしても、欧州や新興国などで遅れてリストラの流れが出てくるだろう」と分析する。仮に夏場に新型コロナがピークアウトしたとしても、世界で4000万人もの失業者が残り、失業率は6・5%で高止まりする可能性があるという。「自殺者の増加や治安の悪化に加え、ノウハウを持つ人材が失われることによる更なる成長の妨げなども懸念される」(石川氏)。(コロナ経済)
「リーマン」再現か
世界中で経済活動がストップする中、4月20日にはWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物価格(5月物)が、史上初のマイナス圏に突入するという異常事態が起きた。
「4、5月の輸送用の実需がすさまじく落ち込む恐れがあり、それに対する投機筋の緊急的な反応だ」と資源・食糧問題研究所代表の柴田明夫氏は分析する。
懸念されるのは信用格付けの低い社債を発行し、資金を調達している米シェール企業の経営破綻だ。これら企業の社債はデフォルト(債務不履行)の可能性が高い投資不適格に当たることから「ジャンク債(くず債)」と呼ばれている。
4月1日には、米国の大手シェール企業ホワイティング・ペトロリアムが米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を裁判所に申請している。シェール企業は大小合わせて4000社近くあり、その採算ラインは1バレル=40ドル台後半とも言われる。プラス圏とマイナス圏を行き来するような原油安が続けば、破綻が相次ぐ可能性も否定できない。
ジャンク債を発行する脆弱(ぜいじゃく)な企業の破綻が、信用不安の連鎖を通じて金融システム全体に波及していく「システミック・リスク」が生じる恐れもある。柴田氏は「リーマン・ショックの引き金になったのは返済能力の低い消費者に住宅購入用に貸し付けられた“サブプライムローン”だった。今回も同様のリスクがある」と指摘する。
ただ、米連邦準備制度理事会(FRB)は既にジャンク債の買い入れも決めている。BNBパリバ証券チーフクレジットストラテジストの中空麻奈氏は「米国は大きい会社はつぶさないという構えで、破綻の連鎖が続くことを避けようとしている」との見方を示した。
米国では経済活動の段階的再開についての議論が活発化している。トランプ大統領は4月16日、人と人との距離を取る「ソーシャル・ディスタンシング対策」を厳格化し、レストランやスポーツジムなどの営業再開を認めるとするガイドラインを発表。一部の州は既に再開に向けて動いている。
欧州でウイルス禍の震源地になったイタリアも、経済界の強い圧力に押され一部商店などの営業再開を認めている。
ただ、「終息」にはほど遠く、秋口にかけて再び感染が拡大する懸念があるとされており、「再開は時期尚早」との声も根強い。経済を優先させるか、ウイルスの終息を優先させるか。各国は厳しい決断を迫られている。
日本の零細に迫る倒産危機 売り上げ1割減でも赤字に
欧米と比べ、日本は今のところ緩やかな外出制限にとどまっている。だが、人々の自粛ムードによって宿泊、飲食業界は大きな打撃を受けている。
「今の状態がだらだら続いたら、中小企業は持たない」。東京都内で食品加工業を経営する男性(54)は漏らす。市場で仕入れた野菜をカットし、飲食店や病院、老人福祉施設、学校給食用などに卸している。納品先の飲食店が売り上げ減少や休業に追い込まれており、3、4月の収入は8割減った。病院や施設だけが頼みの綱だ。
納品先への売掛金の回収は2カ月先。「今は2カ月前の稼ぎで何とかしのいでいるが、来月、再来月が怖い」。月250万円の家賃も重くのしかかる。社員10人の給与を維持し、他に収入のあるパートや外国人アルバイトに自宅待機を求めている。2年前に新たな工場を建て、事業規模を大きくしたばかりだ。信用保証協会を通じ、当座の資金をなんとか調達したものの、「もしゴールデンウイーク後も今の状況が続けば、真っ先に削る必要が出てくるのは人件費。社員の雇用が守れなくなる」と懸念する。
図3は、財務省「法人企業統計(18年度)」を基に、業種・規模別の損益分岐点比率を算出した図だ。損益分岐点とは、売上高が固定費と変動費の合計と一致する、つまり利益が「0」となる水準のことで、損益分岐点比率は「損益分岐点÷売上高×100」で計算される。
例えば全産業で見ると、資本金10億円以上の企業では売り上げが60・9%に縮むまでは利益が出るが、1000万円未満の企業では売り上げが91・3%に縮んだだけで利益が出なくなるということになる。100%を超えているところは「赤字」を意味する。宿泊業、娯楽業、飲食サービス業や陸運業の零細企業で、より深刻だということが分かる。
表では、売り上げがどれだけ減少したら債務超過になるのかを示した。全産業では資本金1000万円以上の企業では売り上げがゼロになっても債務超過にはならないが、1000万円未満の企業では売り上げが65・4%減少すると債務超過になる。やはり厳しいのは飲食サービス業で、全体では53%、資本金1000万円未満の企業では5・5%売り上げが減ると、債務超過に陥る。
試算したニッセイ基礎研究所経済調査部長の斎藤太郎氏は「規模の大きい企業が売り上げが出なくても債務超過に陥らないのは、内部留保を積み上げているのだろう。逆に零細企業は、少し売り上げが落ちただけで厳しくなる」と分析する。
今回のコロナショックでは、中小企業の多い飲食業を中心に売り上げが蒸発している。斎藤氏は「融資はあまり救いにならない。国が損失分を補てんし、倒産を防ぐしかない」と指摘する。
「派遣切り」も
野村総研は6月末の感染のピークアウトを前提に、これまで2%程度だった国内の失業率が3・1~5・2%に拡大すると試算する。未来創発センター制度戦略研究室長の梅屋真一郎氏は「日本には厳しい解雇規制がある。高齢化を背景に人手不足感もあった。感染が長引かなければ米国のような事態には陥らないだろう」と見る。
一つの山は、連休明けにピークアウトの兆しが見えるかどうかだ。政府は4月7日に発令した緊急事態宣言を延長するか解除するか、連休中に判断する考えを示している。梅屋氏は「そこで終息の兆しがないと、3カ月間の短期契約の派遣社員が雇い止めに遭うようなケースが出てくる恐れがある」と懸念する。
(市川明代・編集部)
(桑子かつ代・編集部)