資源・エネルギー

コロナ禍で水道料金「減免」の波 安全な水質の維持に黄信号=吉村和就

今年1月に和歌山市で老朽化した水道管が破損し、大規模な断水が起きた
今年1月に和歌山市で老朽化した水道管が破損し、大規模な断水が起きた

 新型コロナウイルス対策として医療体制整備や特効薬開発が話題になっているが、日本のコロナ対策の最大の貢献者は「水道」である。

 コロナ対策で手洗い・うがいが重要であることは言うまでもないが、豊富かつ水質も安全な水道水を安い料金で享受できる日本は恵まれていると言える。例えば、パリ市では道路掃除や公園の噴水などに使われる雑用水道から、微量の新型コロナウイルスが検出されたが、日本では今のところそうした例は出ていない。

 明治20(1887)年に横浜で近代水道が開始されて以来、日本国民の公衆衛生を守り続けてきた水道はいま、料金収入の減少、水道施設の老朽化、水道人材の不足に直面し、その対策には毎年約2兆円の更新費用が必要である。

(出所)筆者作成
(出所)筆者作成

詳しくはこちら

 筆者は、本誌5月5・12日合併号で、自治体で相次ぐ「水道料金値上げラッシュ」の実態を伝えるとともに、値上げは水道維持のために必要であると主張した。

 しかし、その一方で水道料金の全額免除や水道料金の減免制度を打ち出す自治体が増加しているという、全く逆の動きも見られ始めた。表に2020年5月11日までに公表された例を示す。

 こうした減免制度が浮上した背景には、コロナショックで売り上げを大きく減らす事業者が多いなか、水道料金を安くすることで、少しでも事業者の負担を減らそうという狙いがある。

 だが、水道料金は、すでにインフラ維持が不安視されるほど低く抑えられている。減免が広がれば、現在でも大きく不足する原資がさらに先細りになってしまう。

 コロナ禍の拡大を食い止めている水道を劣化させては、本末転倒である。国民の命を守る水道を崩壊させる「減免」の動きは、国を危機に陥れるウイルスのようだ。

200億円減収

 水道料金の算定方法は、総括原価方式であり、「原価(人件費、動力費、修繕費、減価償却等)+支払利息+資産維持費+その他費用」を水道料金収入で賄う独立採算性が基本であり、水道料金は議会の議決を経て条例で定める。

 全国約1400水道事業体の52%は原価割れ(給水販売価格が製造原価より低い、厚生労働省「水道ビジョン」)つまり赤字体質であり、多くの自治体では一般財源(税金)より補填(ほてん)し、公営企業会計上では黒字に見せかけている。全国の水道料金収入(2兆5000億円、10年度)は、人口減少、用水型産業の海外移転、大口ユーザー(ショッピングモールや大病院、大学など)の地下水利用などにより、過去10年間で2000億円の減収であり、毎年200億円ずつ収入が減少している。

 また、漏水事故(年間約2万件)の主因となっている老朽管(耐用年数40年超)の割合は全国総延長68万キロの15%、10万2000キロ(地球2・55周に相当)に達し、その更新率は0・76%であり、すべての老朽管を更新するためには約130年かかるという試算も出ている。厚生労働省では、全国の水道施設の予防保全をする場合、19年度から38年度の20年間で、年度平均約1兆9000億円の更新費が必要と推計している。つまり、水道事業を持続可能にするためには、国費での支援と水道料金の値上げが必須であることを示している。

「不純な動機」も

 水道料金の減免の動きには、“不純な動機”も透けて見える。110を超える自治体の長から、次の選挙対策としての“人気取り”とも思われる水道料金・全額免除とか基本料金の減免が大きく打ち出されている。他方、同様の公益事業である電気・ガス・通信・放送・公共交通などの料金免除、減免などは今のところ聞かれない。

 首長として鶴の一声で実施できる安易な水道料金減免を蔓延(まんえん)させることは水道の維持につながらない。仮に減免するにしても、国費での支援の裏打ちがなされてからすべきである。

(吉村和就、グローバルウォータ・ジャパン代表)


「パリの水」にもコロナ 下水分析で早期警戒へ

処理済みの下水を採取する都下水道局の職員
処理済みの下水を採取する都下水道局の職員

 パリ市当局は4月19日、市内27カ所で雑用水道(人の飲用を用途目的に含めない水道)の水質検査を行った結果、4カ所で微量の新型コロナウイルスが検出されたと発表した。ウイルスが流入した経路は、感染者の排せつ物が下水として川に流れ、その後に取水したとみられている。

 パリ市の雑用水はセーヌ川やウルク運河を水源とし、水道水中に混じったさまざまな異物は沈殿処理されるものの、殺菌はされていない。

 市当局は、「雑用水は飲料水とは完全に分離された別の配管網で供給されているので、問題はない」としている。ただし、道路散水で空気中に広がる恐れがあることから当面雑用水の使用を見送ることを決めている。現在すべての市内の公園は閉鎖されている。

 フランスの科学者は、感染が拡大するパリ市の生下水を1カ月以上、水質検査し、微量コロナウイルスの消長を分析・データ化し早期警戒システムの開発に乗り出した。パリ市水道局のウイルス研究者セバスチアン・ワルター氏はこのシステムにより隠れた感染者数の把握や、第2波の感染拡大の予兆が得られるとしている。東京都も5月13日から下水の調査研究を始めた。

(吉村和就)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事