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ポストコロナの金融緩和が「バブル相場」を演出する=立沢賢一(元HSBC証券会社社長、京都橘大学客員教授、実業家)
新型コロナで狂ったシナリオ
新型コロナショックが発生する前、野村グループは鼻息荒く、「企業の稼ぐ力が回復、株主還元も増えて日本株は長期投資に堪える。投資教育に力を入れて1900兆円の個人金融資産で株の比率が高まれば、所得が増えて消費につながる」と豪語していました。ところが新型コロナショックを受けて今はその勢いはありません。
ちょうど今から約1年前に金融庁の金融審議会「市場ワーキンググループ」報告書で「老後の30年に2000万円を取り崩す必要がある」という試算が世の中で大注目されていました。
あれから1年経過し、新型コロナショックに伴う経済環境の激変で各国中央銀行は金融緩和政策の実施を余儀なくされました。多くの日本国民の人生設計は狂ってしまい、預金に頼るしか方法がない一般的な老人の資産作りは益々難しくなりました。
中央銀行による過剰流動性の恒常化
4月から継続的に報道されるワクチン開発のポジティブなニュースに株式市場では楽観論者が悲観論者を凌駕するが如く、ダウ平均は直近の最安値から半値戻しを達成し、ナスダック総合指数は史上最高値を更新しています。
悲観論者は第二波や第三波が断続的に懸念される中、少なくとも有効なワクチンが開発されるまでは家計や企業は消費や投資を手控えがちになるのではないかと考えています。従いまして、6-10月までに二番底を狙って相場が再度下降するのではと懸念しています。もし二番底を狙うとすると、タイミング的には10月辺りでその理由は感染第二波ではないかと個人的に予測しております。
目線を実体経済から金融経済に移して考えて見ましょう。
現在、世界中の中央銀行で自国経済規模以上のバランスシートを有するのは日銀だけです。
しかし、3月以降、FRBやECBといった欧米中銀が凄い勢いでバランスシートを拡大し、株式ETFなどを購入し続けています。
このままいくと、世界は中央銀行による過剰流動性が恒常化することになリます。
簡単に申し上げれば、カネ余り(過剰流動性)が原因の金融相場が継続する可能性が非常に高いのです。
昨今、大きくダメージを受けた実体経済と、底打ちしたかと思わせるような金融相場が続いています。
悲観論者が首を傾げてしまうのは、実体経済の肌感と金融市場の好調さが腑に落ちないからです。
アフターコロナでもその傾向がニューノーマルとして続くのかが焦点です。
上述しました世界的金融緩和状況の中、上向かない需要に呼応し供給過多になりつつあります。
所謂デフレギャップの影響で、実体経済にエネルギーを注入すべく金融緩和を継続しても、その恩恵を享受するのは実体経済ではなく金融経済なのです。
民間のカネ余りが進めば進むほどある現象が発生します。
それは、民間企業は余剰資金、余剰金や借入金を設備投資に回すのではなく、自社株買いや配当の原資として利用するということです。これで利益を受けるのは株主であり、株価上昇に繋がるのです。本来なら、中央銀行から放出されたおカネは実体経済に息吹きを与え、国民全体が利益を享受しうるべきですが、実態的にはその目的が達成されていないのです。
米国株は確実に割高状態
現在米国ダウの平均PERは20.66倍で、S&P500のそれは25倍です。
1871年から150年間で見ても米国株のPERはかなり高いレベルに位置していると言えます。
PERはその数値が高ければ高い程、今の株価が既に高水準である可能性を示唆していますので、歴史的に見れば、米国株は確実に割高状態になっています。
因みに概算ですが、Zoomは2,000倍、アマゾンは116.3倍、Baiduは111.1倍、Paypalは95.2倍、Netflixは87倍、Coca Colaは67.6倍、P&Gは61.4倍、Disneyは51.6倍、Facebookは32.3倍、Microsoftは30.6倍などなどPER30倍以上の米国企業は何と547社もあるのです。
過去の経験則では、PERが25倍の場合、株式市場の年率上昇率は5%程ですから、明らかに今の株式市場の動きは異次元気味です。それだけ割高でも株式に人気が集まっているのは世界が超低金利なので定期的に配当が見込める株式が魅力的だからなのです。
トルコリラのようなリスク通貨を除けば、ある程度の利回り(インカム)がある金融商品は世界中で枯渇しつつあります。超低金利やゼロ金利政策の影響で債券の利回りも軒並み下落しています。従いまして、配当というインカムゲインを期待できる株式に投資資金が向かってしまうのは止むを得ない事情だと言えるのです。
中長期運用に日本株は不向き
そして特需的な株式需要が個別企業の選定判断を困難にしています。
本来なら、PERなどの企業業績指標をベースに企業分析を行って投資銘柄を選定すべきなのです。ところが過剰流動性の影響を受けた金融経済の影響力が遥かに大きなインパクトを株式市場に与えてしまっているので企業分析が機能し難くなってしまっているのです。結局、過剰流動性の変動をチェックする方が個別企業分析よりも大事だということなのです。
アフターコロナの投資に関して、過剰流動性のメリットを被ることができる資産は米国株式だけでなく、海外不動産やゴールドも含まれます。日本株は短期トレードなら構いませんが、残念ながら、価格形状が右肩上がりに成り得ないことから、中長期運用には不向きだと思います。
注意点は、今後も相場の乱高下は続く可能性は高いということです。
ですから、株式、不動産やゴールドのようにアセットが背後にある資産は中長期投資に向いているのですが、暗号資産(仮想通貨)のようなアセットがない投資商品は下げの幅は大きくなる傾向にありますので避けた方が良いのではないかというのが持論です。
立沢賢一(たつざわ・けんいち)
元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授。会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。投資家サロンで優秀な投資家を多数育成している。
YouTubeチャンネル https://www.youtube.com/channel/UCgflC7hIggSJnEZH4FMTxGQ/