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マーケット・金融 地銀の悲鳴

スルガ銀行をコロナ禍による経営危機第2波が襲う=山本大輔(金融アナリスト)

売却した東京・日本橋の社屋
売却した東京・日本橋の社屋

 スルガ銀行は今どうなっているのだろうか。2018年にシェアハウス関連の不正融資が発覚し、行政処分を受けたことから、19年3月期に971億円の最終赤字を計上。経営再建が急務となり、外部に支援を求めた。6月26日の株主総会では、嵯峨行介新社長を中心に、取締役会がほぼ外部出身者に入れ替わる。筆頭株主は18.5%を保有するノジマ。野島廣司・ノジマ社長が取締役副会長として加わる。

 スルガ銀行とノジマとの業務提携については、金融とITを融合して消費者向けにサービスを提供する「リテールテックの共同事業化」などの文言が並ぶものの、市場関係者は「十分な収益化のイメージが湧かず、結局ノジマが何をしたかったのかが分からない」と突き放す。新生銀行とも一部業務提携したが、その後は表立った動きはなく、「新生もこれ以上深入りする気はないのだろう」(同関係者)。

 スルガ銀行の収益状況は、20年3月期の連結純利益は253億円と黒字回復した。ただ、スルガ銀行の創業家が東京・日本橋の社屋を数百億円で三井不動産に売却し、その売却益でスルガ銀行からの融資を返済。銀行側は既に引当金を計上していたために多額の引当金の戻入益が計上されることになった。

 また、今年3月には問題となったシェアハウス関連の債権の一部を外部に譲渡。こちらも銀行側は既に引き当てを計上していたために戻入益が計上された。20年3月期はこれらの一過性の利益が利いた面も大きく、銀行側も21年3月期の連結純利益は黒字ながらも60億円まで減少すると見込む。

貸出金残高が減少

(出所)スルガ銀行決算資料を基に編集部作成
(出所)スルガ銀行決算資料を基に編集部作成

 経営の危機は去ったのだろうか。関係者は「第2波はありうる」と警戒感を示す。というのも、スルガ銀行の貸出金残高が減少を続けているからだ(図)。

 スルガ銀行から新規に融資を受けたい顧客は少ない一方で、スルガ銀行から以前融資を受けて月々の返済を続ける顧客は多い。そうすると自然に貸出金残高は減少、そこから生まれる資金利益も減少して、いずれは固定費を賄いきれなくなるという構図である。

 銀行側も19年11月に公表した中期経営計画では、22年度までに年間の融資実行額1900億円を目指し、貸出金残高の減少を食い止めることを狙う。個人向けの投資用不動産ローン・住宅ローンなど、従来と異なるターゲット層も視野に入れながら、新規実行の積み上げを図る。

 ただ1900億円という金額は最盛期の新規実行のおおむね半分で、貸出金残高の減少を完全に止めるには至らないと考えられる。20年3月期の個人向けの投資用不動産ローン・住宅ローンの実行額は62億円に過ぎない。

 その中でスルガ銀行が活路を見いだそうとしていたのは、新たに始めた法人向けのアセットファイナンス(保有資産から得られるキャッシュフローを返済原資とする資金の融通)であった。20年3月期の実行額は66億円と個人向けを上回る立ち上がりを見せていた。他行に案件を紹介してもらう形をとり、リスク分散を図りたい他行と個人からの新規融資獲得に苦しむスルガ銀行との利害が一致した。

 しかしそこに運悪く発生したのが新型コロナウイルス禍である。アセットファイナンスの対象資産の中心である不動産がコロナ禍によって収益性が低下することが見込まれ、現在は新規案件が急減している。新たな道も新型コロナに邪魔されたスルガ銀行に、危機の第2波が迫っている。

(山本大輔・金融アナリスト)

(本誌初出 スルガ銀行 ノジマとの提携効果見えず 新たな活路も目算狂う=山本大輔 2020・6・23)

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