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財政健全化をしない日本は先進国失格だ=鈴木透・ジャーナリスト

    表1
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     OECDに加盟する先進国の中で、日本は唯一、独立した財政監視機関を持っていない。もともと財政赤字が肥大化している日本は、コロナ対策でさらに財政赤字に拍車がかかっている。だからこそ日本は早急に独立財政機関(IFI:Independent Fiscal Institutions)を設立し、財政状況を管理・検証するべきだ。(表の拡大画像はこちら)

    コロナで膨れ上がる国の借金

     政府は新型コロナウイルス対策で、2020年度予算において2回の補正予算を編成した。2回の補正予算による一般会計歳出分(いわゆる真水部分)の財源をすべて国債の発行に頼った結果、20年度の国債発行残高はついに1000兆円を突破する。

     20年度の新規国債発行額90.2兆円は、リーマンショック後の09年度の経済対策による国債発行額52兆円を大きく上回る。

     一般会計歳出額のうち、国債発行が財源の割合である「公債依存度」は、2回の補正予算を含めると56.3%(うち赤字国債の割合は44.5%)に跳ね上がる。つまり、国の歳出額の半分以上が国債という借金によって賄われるのだ。

     20年度当初予算102.7兆円のうち、国債の償還と利払いを行うための経費である「国債費」は23.4兆円にも上り、予算の22.8%を占める。

     この結果、政府が政策などに使える経費である基礎的財政収支対象経費は79.3兆円まで圧縮される。

     その分、国民生活のために充てられるべき基礎的財政収支が減っている。

     予算に占める国債費の割合は、1960年度には僅か0.03%に過ぎなかった。それが、70年度に0.3%、1980年度に5.5%、90年度に14.3%、2000年度に21.4%と一貫して上昇し、基礎的財政収支を圧迫し続けている。

     当たり前のことだが、今回の2回の補正予算は新型コロナ対策に使われる。

    いまこそ財政出動はすべきだが…

     日本だけでなく世界の多くの国々が新型コロナの感染拡大による国民の健康被害と、経済的なダメージを天秤にかけた上で、外出自粛や休業要請を行い経済を犠牲にした。

     その結果として、国が企業や個人に対する支援を行うのは当然であり、ある程度新型コロナの感染拡大が収束した後も、引き続き、感染拡大防止と経済活動を両立させるために、適切な財政出動を行う必要がある。需要を支えていくためには、財政政策の役割は重要だ。

     だが、持続化給付金をめぐる「サービスデザイン推進協議会」なる団体への不透明な業務委託問題。あるいは、安倍晋三首相が「強盗」と言い間違えたことで“失笑を買った” 「Go Toキャンペーン」の総事業費約1兆7000億円のうち、事務経費が2割近い約3000億円にものぼる問題など、財政を不透明な形で、効果の薄い事業に使わせてはいけない。

     IMF(国際通貨基金)の推計によると、19年のG7(先進7カ国)の公的債務(大半が国債で、ほかに借入金、政府短期証券など)の対GDP比は、日本が237.7%と突出している。100%を上回っているのは米国(106.2%)とイタリア(133.2%)だけで、それ以外は100%未満なのである。

    リーマン・ショックで相次いだIFIの設立

     さらに問題なのは、比率が継続して上昇しているのが唯一日本だけだという現実だ。しかも20年の日本の公的債務の対GDP比は、2回の補正予算によって250%を超える水準まで上昇する。日本以外のG7各国は、財政規律に目を配り、財政健全化を進めている。その一端を担っているのがIFIという独立した財政監視機関だ。

     OECD(経済協力開発機構)はIFIを「政府や政党からの独立性を有し、中立的な観点から財政状況等を管理・評価し、必要に応じて政府に対して提言等を行う公的機関」と定義されている。

     諸外国では、リーマン・ショック後にIFIの設立が相次いだ。

     19年9月現在、OECD加盟国36カ国中、29カ国がIFIを設置しており、このうち21カ国はリーマン・ショック後に設置されている。EU(欧州連合)では、13年から加盟国に対してIFIの設置を義務付けている。

    「他国のまねをするな!」OECDの9原則

     OECDは14年にIFIに関し、他国の模倣でなく、当事国としてオーナーシップを持っているか、政府から独立しているか、権限は与えられているか、政府情報にアクセスできるか、財政基盤や国民との関係、国際的な専門家が外部から評価する仕組みがあるか、など9項目の諸原則を勧告している(表2)。

     実際に、IFIは独立した機関として十分な予算と権限を与えられ、経済・財政予測を行い、また政府見通しを検証し報告・提言する役割を担うが、その役割は各国で様々だ(表1)

     実は日本でもIFIの設立は何度が議論の俎上に上った。

     13年6月に衆参両院の超党派の議員がIFIを「衆参両院の合同協議会の下に設置すべき」との提言を行っている。また、16年9月のIMF報告書では、日本におけるIFI設立が提言されている。

    表2
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    ギリシャを引き合いに拒否した日本

     しかし、当時の政府の見解は、2010年にIFIが設立された後も厳しい財政状況にあった当時のギリシャを引き合いに出し、「独立した財政機関の存在によって信頼ある財政運営が担保されるとは限らない」というものだった。

     しかし日本の財政赤字拡大には拍車がかかっており、その使われ方には、不透明で効果の薄いものも多く含まれている。

     日本では憲法に基づき財政民主主義による財政統制などが定められているが、財政運営に対しては「持続化給付金」や「Go Toキャンペーン」に見られるように、利益誘導が疑われる事象も起こっている。

     さらには、政治家が票を獲得する手段として、安易に“現代世代の利害のため”に財政赤字を拡大させれば、それは将来世代へのツケを回すことになりかねない。

     こうした事態を避け、財政が本当に必要な政策に対して、適切に使われているのかを監視・検証し、中長期的な観点から財政の持続性を確保し、財政規律を保ちながら財政健全化を図っていくための中立的な機関が必要だ。

     そのためにも、今こそ、日本版IFIを設立すべきだ。

    (鈴木透・ジャーナリスト)

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