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「財政ファイナンス相場」が招く株高=渡辺浩志

    (注)備蓄率=貯蓄÷家計可処分所得 (出所)米経済分析局(BEA)よりソニーフィナンシャルホールディングス作成
    (注)備蓄率=貯蓄÷家計可処分所得 (出所)米経済分析局(BEA)よりソニーフィナンシャルホールディングス作成

     米国経済は悪化しているが、株価は上昇基調にある。コロナ禍での株高の原動力は何だろうか。

     そもそも株価とは、企業収益(EPS)の割引現在価値であり、EPSを割引率(=実質金利-期待成長率)で割ったものだ。また、この割引率の逆数が株価収益率(PER)である。足元の株高は、EPSが下落する中での、PERの急上昇が原動力になっている。

     では、なぜいまPERが急上昇しているのか。その原因は、財政・金融政策の協調にある。今回の景気後退は、コロナ感染抑止のための経済活動の強制停止によるものであり、「官製不況」だ。その損失補填(ほてん)として、政府が積極的な財政出動を行い、中央銀行はそれを金融緩和で支援している。

     巨額の財政出動は、コロナ禍で失墜した企業の期待成長率を回復させる。一方、未曽有の金融緩和は名目金利の上昇を抑え込むとともに、インフレ期待を刺激し、実質金利を低下させる。この「期待成長率の回復」と「実質金利の低下」が割引率を押し下げ、その逆数であるPERを押し上げる。

     景気後退期に金融緩和によってPERが上昇することを「金融相場」と呼ぶが、現在は財政・金融政策の協調によるPERの上昇であり、「財政ファイナンス相場」と呼ぶのがふさわしい。

    PERが更に上昇

     米国の財政出動の最たるものは、家計への現金給付や失業給付だ。これによって可処分所得は急増したが、消費支出は外出禁止によって減少したため、4月の貯蓄率は史上最高の33%となった。(図1)。米国の家計は、懐は温かいのに財布のひもを解けない状態にあり、いまの高い貯蓄率はペントアップ・デマンド(繰り越し需要)の膨大さを表している。

    (注)マーシャルのk=通貨供給量(M2)÷名目GDP、2020年4~6月期は筆者予想 (出所)ブルームバーグよりソニーフィナンシャルホールディングス作成
    (注)マーシャルのk=通貨供給量(M2)÷名目GDP、2020年4~6月期は筆者予想 (出所)ブルームバーグよりソニーフィナンシャルホールディングス作成

     経済活動が正常化に向かえば、貯蓄率は平時の水準へ近付き、その過程で年率5兆ドルもの個人消費が発生するだろう。これは企業の期待成長率を大いに高めるものだ。他方、金融緩和で米連邦準備制度理事会(FRB)の総資産は拡大。通貨の余剰度を表す「マーシャルのk」も急上昇しており(図2)、実質金利を押し下げている。

     今後コロナ禍の「第2波」が襲い掛かるなら、トランプ政権は速やかに数兆ドルの追加財政出動を行うだろう。それは国債増発を伴うため、FRBはすかさず国債買い入れを加速させるだろう。結果的に「第2波」は実体経済やEPSを悪化させるが、追加的な財政・金融政策の引き金を引き、PERを一段と上昇させよう。そのため、株価は二番底があったとしても一番底より浅くなるほか、財政ファイナンス相場の強化で、後の株高はかえって加速しそうだ。

    (渡辺浩志、ソニーフィナンシャルホールディングス・シニアエコノミスト)

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