新型肺炎で不良債権と財政赤字は拡大へ=神宮健
新型肺炎による景気下押し圧力が顕在化する中、中国政府は影響を抑えるために金融・財政面でも多くの措置を取っている。
金融政策では第一に、金融調節手段を駆使し、市中に低コストの資金を供給している。
人民銀行は2月初旬、大規模な公開市場操作(オペ)を行って資金を十分に供給する姿勢を示し、市場心理を安定させた。2月中旬には、商業銀行などに主に期間1年の資金を融通する中期貸し出しファシリティー(MLF)の貸出金利を0・1%引き下げ、2000億元(約3・1兆円)供給。このMLF金利を基に決まる商業銀行の1年物プライムレートも0・1%低下し、4・05%となった。
さらに人民銀行は、マスク・防護服メーカーや生活物資の生産・輸送会社といった重点企業向けに、3000億元(約4・7兆円)の低利融資枠を設定。財政省からの利子補充により、企業は商業銀行を通じ年1・6%を下回る優遇金利で融資を受けられる。
今後は、商業銀行から強制的に預金の一定割合を預かる「預金準備率」を下げて資金供給することも予想される。
また、新型肺炎の影響が大きい企業に配慮するよう商業銀行などを指導。卸・小売りやホテル、飲食、運輸、旅行業、小・零細企業に対する貸し出しの継続や返済延期を求めている。個人の住宅ローン、クレジットカードの返済延期や信用記録面での配慮もある。
第二に、影響の深刻な地域などでは監督管理を緩和する。銀行保険監督管理委員会は小・零細企業に対する貸し出しについて、不良債権比率のある程度の上昇を容認する。また、シャドーバンキング(影の銀行)抑制策でもある資産管理業務の新規定についても、今年末に予定されていた完全実施期限の延期が検討されている。
ここ数年、金融面では、不良債権の処理が進み、シャドーバンキングも整理中だったが、しばらく停止することになる。
28兆円の地方債前倒し
財政・税制面では、医療手当、病院建設など緊急の財政支出が2月13日時点で805・5億元(約1・3兆円)に上る一方、防疫関連の重点企業の設備購入の費用全額を当期に損金算入することを許可。影響の大きい産業の企業損失の繰越期間を3年延長(現行5年)するといった措置も取られる。
地方政府の財政支出も促す。国務院(内閣)は2月11日、今年の地方政府債の新規増加枠8480億元(約13・4兆円)を前倒しで認めた。既に認められている前倒し1兆元(約15・8兆円)分と合わせ、約1・8兆元(約28・4兆円)の地方債が、全国人民代表大会(全人代)の正式決定を待たずに発行できる。
景気を下支えしたい政府の意図が透け、今後の財政赤字拡大も容認すると思われる。ただ、昨年の財政赤字(歳入-歳出、繰越金などによる調整前)は、名目GDP(国内総生産)比4・89%に及び、以前ほど財政に余裕はない。
中国政府は、大きな危機の際は各方面の政策を総動員し、これまでの政策と違っても社会安定を保つことを最優先する。今回も同様で、金融・財政面の健全化プロセスは一時棚上げすることを余儀なくされよう。
(神宮健・野村総合研究所金融イノベーション研究部上席研究員)