新規会員は2カ月無料!「年末とくとくキャンペーン」実施中です!

教養・歴史 書評

アメリカ 異例の出版となったボルトン暴露本=冷泉彰彦

 ブッシュ政権で国連大使を努めたジョン・ボルトン氏は、トランプ政権の安全保障補佐官の職にあったが2019年9月に大統領との対立により解雇されている。

 そのボルトン氏の執筆した回顧録『何かが起きた部屋("The Room Where It Happened")』が発売となった。ホワイトハウスが発売日の直前まで出版停止の仮処分を求めた中での異例の発売である。

 そこまでの騒動になった理由としては大きく2点が指摘できる。

 1点目は、本書が扱っているウクライナ疑惑に関する内容が、19年に始まったトランプ大統領に対する弾劾裁判に関係したという点だ。大統領が、ウクライナ当局に圧力をかけ、要求に応じない場合は軍事援助を打ち切ると持ちかけた際の生々しい記録が本書の草稿にあったのだが、どういうわけか事前に漏えいしていた。結果的に、民主党は、弾劾裁判の際にボルトン氏を召喚して宣誓証言させることに失敗し、大統領は弾劾を免れた。だが、本書の記述そのものは改めて大統領へのダメージになると考えられたのである。

 2点目は、その他のスキャンダルだ。中国の習近平主席に対してトランプは「自分の再選に協力」するよう依頼したとか、北朝鮮との首脳外交は韓国が仕組んだもので米国の国益には反している、などの記述は、トランプ大統領の外交への批判であると同時に、同盟国を怒らせるような暴露に満ちている。日本に関しても、在日米軍の駐留費用として8000億円を要求したという記述があり、日本側が打ち消しに追われた。

 こうした点を問題としてホワイトハウスは出版差し止めを要求した。だが、裁判所は時間切れを理由に仮処分申請を却下、本書は結果的に発売された。紙版の書籍が印刷製本されて書店等に所有権移転がされているためである。だが、政府による機密指定解除の手続きを怠った事実は残る。このため、2億円を超えるというボルトン氏の印税は没収される可能性もあるという。

 結果的に、違法な出版というエピソードがつくことで、本書の内容の信ぴょう性は損なわれた。また事実関係を立証する機会も失われたことを考えると、今回の出版強行は、失敗という見方もある。

(冷泉彰彦・在米作家)


 この欄は「永江朗の出版業界事情」と隔週で掲載します。

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

12月3日号

経済学の現在地16 米国分断解消のカギとなる共感 主流派経済学の課題に重なる■安藤大介18 インタビュー 野中 郁次郎 一橋大学名誉教授 「全身全霊で相手に共感し可能となる暗黙知の共有」20 共同体メカニズム 危機の時代にこそ増す必要性 信頼・利他・互恵・徳で活性化 ■大垣 昌夫23 Q&A [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事