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香港国家安全維持法によって設置される「秘密機関」の恐るべき正体=立沢賢一
まず、香港国家安全維持法の詳細のキーポイントをあらためてご紹介します。
(1) 人権は明文化されているが実質的には認められていない
第1条は一国二制度、香港人による香港統治、高度の自治の方針について、第4条では、人権を尊重し、保障、言論・新聞・出版の自由、結社・集会・デモ・示威の自由を含む権利及び自由を法に基づき保護と民主主義国家並みの原理原則が示されています。
5条では法治原則を堅持し、刑事被告人は判決が出るまでは「無罪と推定」とも書かれています。
第9条では香港特別行政区は「国家安全の維持とテロ活動の防止についての国策を強化しなければならない」と定め、宣伝や指導、監視、管理の対象は「学校、社会団体、メディア、インターネット等」としています。
デモ参加者の中心的役割を果たしていた大学やそれを報じるマスコミやネットが監視対象となり、第4条が言及している人権は第9条の条文により実質的に形骸化している点に注意が必要です。
インターネットやSNSに関しては、猛烈な勢いで、反中国的な書き込みの自主的な削除が起こっています。
つまり、第4条の人権は単なるお飾りでしかなく、中国本土と同じように実質的人権は存在しないのです。
(2) 人民行動統制監視機関の設立
香港人の行動を制限する為に、新たに(1) 国家安全維持委員会(13条から17条)と(2) 国家安全維持公署(48条から52条)の2つの組織が作られています。
① 国家安全維持委員会は、香港行政長官がトップとなり、香港行政府の幹部がメンバーとなっていますが、自律的な組織ではなく、中国共産党の支配下に置かれています。
この委員会には秘書処が設置され、そのトップである秘書長は北京中央政府が任命し「委員会を指導する」とされています(第13条)。
また、北京中央政府が指名・派遣する国家安全事務顧問が会議に出席し、アドバイスを行う(第15条)。委員会は北京中央政府の「監督及び問責を受ける」(第12条)とも定められています。つまり、完全に北京の支配下に置かれているのが一目瞭然です。
しかもこの委員会は「香港特別行政区のその他の機構、組織及び個人の干渉を受けず、業務情報は公開しない。香港特別行政区国家安全維持委員会が行う決定は司法の点検を受けない」(第14条)とされ、市民からは活動の内容がわからない秘密委員会なのです。
今回の組織改革は香港の行政府にも及んでいます。
香港警察には新しく「国家安全を維持するための部門」を設立(第16、17条)し、インテリジェンス情報収集や分析のほか、国家安全維持委員会から任された工作活動も請負うとされているのです。
② 国家安全維持公署は「人員は中央人民政府国家安全擁護の関連機関が合同で派遣」(48条)され、「経費は中央財政により保障」される(第51条)とあり、これは完全な北京中央政府機関であることがわかります。
そして、「中国人民解放軍駐香港部隊の工作連絡と工作協力を強化しなければならない」(第52条)と書かれており、人民解放軍が直接関与できることが明文化されています。
その職務は「情勢を分析・検討・判断し、国家安全維持の重大戦略及び重大政策について意見と提案を提出」「香港特別行政区が国家安全維持の職責を履行することを監督、指導、協調、支持」「インテリジェンス・情報を収集分析」「犯罪事件を扱う」(第49条)などとされていて、香港での反政府活動などを取り締まるための秘密警察組織であることが一目瞭然です。
つまり、北京の支配下でスパイ工作を行う秘密委員会(国家安全維持委員会)と人民解放軍が背後に付いた中央政府機関(国家安全維持公署)が新たに設置されたことになります。
18条では、検察行政など中央での法務省に該当する部門には、新法違反者を扱うための国家安全犯罪事案起訴部門が設立されるとしています。
19条では、国家安全維持に関する支出は一般財政を充てるとし、新法関連の財政支出について香港行政府の拒否権を否定しています。
つまり、一国二制度は国家安全維持の分野において、組織、人事、法手続き、財政などあらゆる面で、完全に消滅してしまっているのです。
立沢賢一(たつざわ・けんいち)
元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授。会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。投資家サロンで優秀な投資家を多数育成している。
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