もはや隠れ税金? 年550億円の信託報酬は国民負担、大手3社がボロ儲けという日銀ETF購入の「闇」
「積極的な買い入れを行う」──。日本銀行の黒田東彦総裁は6月16日の記者会見で、上場投資信託(ETF)の買い入れ方針について7回も「積極的」と繰り返した。日銀は今年3月、株価急落を受けて「当面の間」、買い入れ額の上限を年12兆円に倍増。その後、株価はV字回復したが、買い入れペースを緩めない意向を強調した。株価下落を恐れてか、いまだ日銀は緊急事態宣言発令中の異様な状態だ。(コロナ株高の終わり)
日銀は保有するETFの信託報酬(運用・管理費用)を負担している。主に運用会社の手数料で、保有時価に対して「年率○%」という形で金額が決まるため、保有額や信託報酬率が大きいほど、日銀の負担額も大きくなる。
重要なのは、このコストが国民負担ということだ。しかも信託報酬は日銀が別途支払うのでなくETFの純資産から差し引かれるので、日銀の決算書には明記されない隠れ負担である。
既に1700億円超
6月末時点の試算では、これまでに負担した信託報酬は1700億円を超え、向こう1年間では550億円(1日当たり約1.5億円)に上る。買い入れを続ければ当然、信託報酬の負担も増える。日銀は「ETFの分配金で信託報酬を賄えている」と説明するが、「賄えればよい」のか。分配金を含むETFの運用成果(コストを除く)は各社でほぼ差がなく、コストが低いに越したことはない。要は費用対効果の問題だ。
ところが、保有額の9割は運用大手3社のETFが占め、信託報酬率が総じて高い(表)。もっとも、日銀の保有額で上位にあるETFは、運用開始時期が早かった経緯もあるので、日銀が高コストETFを中心に保有している現状を一概に批判できるものではない。
それでも、保有額で下位にあるETFの中には信託報酬率を引き下げたものもあり、日銀の保有額が相対的にコストの高いETFに集中し、負担する信託報酬が高止まりしている現状は、ETF業界の競争環境をゆがめている可能性がある。そうであれば一般投資家にとってもマイナスだ。
より深刻なのは政策効果が乏しいことだ。日銀はETF買い入れの目的を「リスクプレミアムに働きかけるため」としている。リスクプレミアムとは「投資家がリスクを嫌がる度合い」。下がると社会にリスクマネーが循環し、物価上昇につながるというロジックで、日銀は「2%の物価安定目標」を目指しETF買いを進めてきた。だが、実際にはリスクプレミアムが上昇している。
2019年5月、日銀の雨宮正佳副総裁が国会で列挙したリスクプレミアムの一つである「株式と国債の利回りの差(イールドスプレッド)」は、異次元緩和を始めた13年4月の4%程度から直近の8%程度まで上昇傾向だった(図)。年間の買い入れ額を1兆円、3兆円、6兆円と増額した直後の数カ月こそ低下したものの、いずれも再び上昇しており、ETF買い入れ政策の賞味期限は短いと言わざるを得ない。
また、株価下落により毎年3月末時点でETFに含み損があれば、その分だけ国庫納付金が減る形で国民負担が出る。幸い、今年3月末は辛うじて含み益で終えたが、信託報酬も含めて政策の費用対効果を日銀自身が検証・公表すべきではないか。
(井出真吾・ニッセイ基礎研究所上席研究員チーフ株式ストラテジスト)
(本誌初出 年550億円の「隠れ国民負担」 大手3社に信託報酬が集中=井出真吾 20200804)