新規会員は2カ月無料!「年末とくとくキャンペーン」実施中です!

マーケット・金融 コロナ株高の終わり

「黒田総裁の次は誰もやりたくない」ジャーナリスト・大学教授・元日銀幹部による覆面座談会

 次期首相の模索が進む中、日銀はどこに向かうか。日銀ウオッチャーたちの視点から展望した。

(構成=編集部)

── 安倍晋三首相の自民党総裁としての任期は残り1年余り。「ポスト安倍」を巡る動きが活発化してきた。首相が辞めると、日銀の黒田東彦総裁も辞めるか?

■ジャーナリストA 辞めるのではないか。黒田総裁は2018年4月に再任したが、2期目はそもそもやりたくなかったはず。政治側がサポートしてくれる、という前提でやってきたから、その前提が崩れれば途中退任はあり得る。

■元日銀幹部A 誰が次の首相になるか次第だが基本的には、黒田総裁は23年4月までの任期を全うするだろう。首相交代で辞めたらさすがに「中央銀行の独立性」の体裁を保てなくなる。

■ジャーナリストB 続投以外、考えにくい。もし黒田総裁も交代となると、2%物価目標の旗を降ろして大規模緩和の修正が始まるという思惑が市場に働き、円高が急激に進むからだ。そもそも日銀総裁は、内閣が衆参両院の同意を得て任命するが、交代なら後任候補探しも含めてものすごい準備が必要。コロナ対応に追われている今の状況下で、その作業は極めて困難。よほどの理由がない限り、途中退任はできない。

── 「ポスト黒田」は。

■ジャーナリストC 黒田総裁が何らかの理由をつけて途中退任する場合、緊急登板できるのは雨宮正佳副総裁くらいだろう。企画局長を務めていた頃は、政治家のウケも良かったと聞く。人脈も政治、金融、財界、学界に偏らず広い。

■ジャーナリストB 雨宮副総裁が後を継ぐのは十分あり得る。政治も含めた日銀のあり方を考える人で、今の日銀は雨宮さんで持っている。7月20日に財務次官に就任した太田充氏とは「ツーカー」

の仲。イールドカーブ・コントロール(中銀が購入する国債の量を調節して金利を一定水準に誘導する金融政策)の導入も、2人で話し合った形跡がある。

■元日銀幹部B 「ポスト黒田」を予想するのは難しいが、確かなのは黒田さんの後は誰もやりたがらない、ということ。知る限り、みんな逃げている。国債や社債などを散々買った後で、今度は「売る」という難題に直面する。恐らく「ポスト黒田」は歴代総裁の中でも最も損な役回りではないか。

── ポスト安倍時代、金融政策は変わる?

■ジャーナリストC 次の首相が誰かで影響は受ける。可能性は低くなっているように見えるが仮に岸田文雄・自民党政調会長に「禅譲」された場合、「アベノミクス」時代を引き継いだような金融政策が続くだろう。一方、石破茂・自民党元幹事長が首相になった場合、現在のような、財政の大盤振る舞いを金融政策で引っ張るような金融政策のイメージは少し変わってくるかもしれない。

■市場関係者 首相が代わっただけで、これまでの金融政策をひっくり返すのは難しい。上場投資信託(ETF)の買い入れをやめたら、株価は急落するだろう。誰が首相になっても、株価暴落や金利急騰は政治的にもリスク。正常化に向けた力が少しずつ働くとしても、ソフトランディングを狙い、金融政策の大幅な変更は当面難しいと思う。

── アベノミクスが看板に掲げた2%の物価目標は、達成から遠ざかる一方だが。

■ジャーナリストC 日銀は18年4月の展望リポートから、2%の目標達成時期を外した。以降、2%には届かないけど、今の緩和を続けることが大事だ、というスタンスが続いている。

■ジャーナリストB コロナが来て、黒田さんは内心、「助かった」と思っているのではないか。というのもコロナ前、世界の中央銀行が政策見直しに動き始めていた。スウェーデン中央銀行は、2%物価目標に届いていないのにマイナス金利を「副作用が大きい」と解除。欧州中央銀行(ECB)も金融政策の検証を20年中に行う方針を示し、日銀も2%物価目標の見直しの議論をやらざるを得なくなる可能性が出ていた。もし「1・5%」や「1%」などと言及したら、円高が一気に進む。円高が進めば、もうやれることはない。マイナス金利を深掘りしたら、銀行は破綻する。完全に手詰まりだった。そこにコロナが来て、従来の2%物価目標はひとまず棚上げし、物価が当面上がらなくても「コロナのせい」にできるようになった。絶好の「言い訳」ができた。コロナ前よりも、今の方が黒田さんにとっては楽だろう。

── 政治との距離は変質したか。

■大学教授 白川方明・前総裁のときの日銀は、白川さん自身がエコノミストだったように、経済理論や政策分析にたけた人が重用された。それが黒田体制になってから、政治を重視する方向に変わった。今の日銀のエコノミストは、日銀の政策を批判するようなことを書けない。だから、調査リポートがつまらなくなった。米連銀の調査リポートは批判的なことも書くから面白いのと対照的だ。

■ジャーナリストB かつて「公家集団」と揶揄(やゆ)され、複雑な金融政策に精通していればよかった頃からは様変わりした。今の黒田日銀は、政府に完全に従属している状態。雨宮さんは、政治は民主党政権から安倍政権、日銀総裁は白川体制から全くベクトルの異なる黒田体制下に代わっても、理論的な支柱であり続けた。現場の職員には「なぜこんなにコロコロ変われるんだ」と冷ややかな目で見る人もいる。ただ、そうした政策理論も政治回りも両方できる人がいなかったら、「黒田バズーカ」はどうなっていたかとも思う。

新しいエース

── 金融政策の原案立案など実務を取り仕切る企画局長に7月20日付で、清水誠一・金融市場局長が就任。従来のラインとは異なる人事とされるが、どう見るか。

■ジャーナリストB 企画局長は日銀のエースが就くポスト。伝統的には企画畑を長く歩んできた人を充ててきたが、今回は別の畑から引き抜いた。清水さんはコロナ禍を受けて今年3月に決めた主要6中央銀行によるドル資金供給の協議を主導したと言われ、雨宮さんが買っている。企画畑は長くないので雨宮さんが鍛えて、新しい日銀のエースを作ろうとしているということだろう。


(本誌初出 覆面座談会 ウオッチャーが語る ポスト安倍時代の黒田日銀 20200804)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

12月3日号

経済学の現在地16 米国分断解消のカギとなる共感 主流派経済学の課題に重なる■安藤大介18 インタビュー 野中 郁次郎 一橋大学名誉教授 「全身全霊で相手に共感し可能となる暗黙知の共有」20 共同体メカニズム 危機の時代にこそ増す必要性 信頼・利他・互恵・徳で活性化 ■大垣 昌夫23 Q&A [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事